〔特集〕心安らかに、精一杯生きるために知りたい 死んだらどうなる? 誰にとっても限りある命。人は死んだらどうなるのか? 古今東西、永遠のテーマをノンフィクション作家・工藤美代子さんが聞き手となり、日本心霊科学協会理事の小児科医・鶴田光敏さんに率直に尋ねる対談は必読。また、研究や体験を通じて死後の世界観を確立されている方々にもお話を聞き、多面的に掘り下げました。死後の世界に思いを馳せることで、“よりよい死を迎えるために、よりよく生きる”一助になりますように──。
前回の記事はこちら>>・
特集「死んだらどうなる?」の記事一覧はこちら>>>
さまざまな体験や研究を経て、辿り着いた境地
日本の著名人、知識人が思う死後の世界
「死後の世界」を信じ、思い描くことから導き出される現世でのよりよい生き方とは? 医師、物理学者、シスター ── 各専門家ならではの視点で死生観を伺いました。
チリとなって宇宙を漂い、新しい姿に再生する
村山 斉さん(物理学者)
バークレーの丘から、大自然と人間界の幻想的な光景が広がる。写真提供/村山 斉さん
私たちはどこから来たのか ── 。宇宙の始まりを調べると答えが見えてきます。
138億年前、インフレーションと呼ばれる大爆発が起こり、原子よりはるかに小さな粒が一瞬にして膨大な宇宙に膨張しました。いわゆるビッグバンです。このとき宇宙空間に生じた濃淡の濃い部分が重力の働きでさらに濃くなり、塊となって星が誕生しました。
その星が寿命とともに潰れて、宇宙に拡散した酸素、炭素、鉄、カルシウムなどの原子から人間ができたのです。誰かが「私は宇宙から来ました。星のカケラでできています」と自己紹介しても噓ではないのですね。
自分を宇宙に重ねると新たな生き方が見えてくる
では私たちはどこへ行くのか ── 。死んでも無にならないことは物理学的にほぼ間違いありません。
人体は原子や分子(原子の集団)でできています。死ぬと体はバラバラになり、原子や分子に分解されチリとなって空中を漂います。そして重力による結合を繰り返して新しい姿に再生されます。たとえば炭素は生物を構成する重要な原子ですので、私たちは人間以外の動物か昆虫か植物になるかもしれません。
写真/(c)g-photo/SEBUN PHOTO/amanaimages
漂う場所はとりあえず地球上ですが、もし50億年後に太陽が消滅したら、チリと化した私たちは宇宙空間にばらまかれ、新しい星に生まれ変わる可能性もあります。いずれにしてもちゃんとリサイクルされるので安心です。
実は宇宙は今も膨張し続けていて、その後どうなるかは2つ学説があります。やがて潰れてビッグバンから繰り返す説と、終わりがなく存在し続ける説。前者は輪廻転生を、後者はキリスト教的な永遠の世界を連想させます。
このように宇宙を研究すれば自ずと人の生死が視野に入ってきます。自分の存在を宇宙の成り立ちに重ね合わせてみると、普段と異なる客観的な視点が生まれ、新たな生き方、考え方も開けてくるのではないでしょうか。
死は科学で解明しきれない。だから関心を持ち続ける
私はクリスチャンとして、死んだら神様のもとへ行き、時空を超えた世界で自分を束縛する制約から解放されると信じています。物理学的に無にならないと知っていること、死後の世界があると信じていることの両方が、生きる支えになっていることは確かです。
一方、現実的な死は科学でも宗教でも説明しきれません。一昨年、母を看取ったときのこと。病状が進み、それまで意思疎通のできていた母が意識不明に陥りました。このときを境に私には母が人間から物質に変化したように見えたのです。命より先に精神が消えたのでしょうか ── 。不思議です。
私を含め死に関心を持つ科学者は少なくないように思います。常に世の中の“わからないこと”を解明したいと考え続ける仕事だからかもしれません。
村山 斉(むらやま ひとし)1964年生まれ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授。米カリフォルニア大学バークレー校教授。専門は素粒子物理学。東京大学大学院修了。宇宙研究の成果を広く発信している。
(次回へ続く。
この特集の一覧>>)