──『THE BEE』で野田さんの演出を受けたことで、ご自身で変わったなと感じるところはありますか?「『THE BEE』は何度も再演されている名作で、何とか私も食らいついていかなきゃという気持ちで必死だったので、やっている最中はよくわからなかったんですが、野田さんには、自分の存在みたいなものにすごく自信を持たせていただいたなと思います。『野田さんは私としっかり向き合ってくれる』と感じたからこそ、自分を出し尽くそうと思えたし、そこから始められたおかげで、ブレずに舞台に立ち続けることができたのかなと。“きちんと舞台に立つ”ということを教わった気がします」
──美しい足に日に日に傷や青あざが増えていくのを気にも留めず、“小古呂の妻”を演じていた長澤さんを思い出します。その『THE BEE』といい、映画『MOTHER マザー』やドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』といい、チャレンジングなお仕事が多い印象があるのですが。「そうですね。特に舞台に関しては、わりと毎回チャレンジングというか、『え、そんな大変な役できるかな』と思うようなお話をいただくことが多い気がします(笑)。でも、だいたい『これがやれたのなら、これもやれるんじゃない?』と事務所の人に言われて、『まあ、確かに』と思ってしまうんですけど(笑)」
──大胆な演技から繊細な演技まで、そこで求められたことに全力で応えていらっしゃるところが素敵です。「ありがとうございます。舞台に関しては、やっちゃえ!みたいな気持ちになってしまうんですよ。そこが映像と違うところかもしれないです。始まったら止められないし、一度出ちゃったら勝手に引っ込むわけにはいかない。だから、幕が開いて走り出したら、もう諦めるんです。『戻れないから、できることをやろう』って」
──その思い切りの良さが素晴らしいです。「演じる仕事をしていて、よかった」と思うのは、どういう時ですか?「やっぱり、見てくださった人から『あれよかったね』とか『面白かったよ』というふうに、感想をもらった時ですね。それしかないかもしれません。私は、お芝居をして達成感とか充実感を得られることがなくて。いつも後で、『ああ、あそこがこうだったな』とか『ああいうふうにやったほうがよかったな』と思ってしまう、ちょっと諦めの悪い人間なんです(苦笑)。それが一瞬和らいで、『やってよかったな』と思えるのが、見てくださった人から感想をもらった時です」
──そこは思い切りが良くないのですね(笑)。でも、諦めが悪いのは、向上心が高い証拠だと思います。「そうなんでしょうか。でも、だから舞台が好きなのかもしれないです。その日の自分に足りなかったものは、自分がいちばんわかっているので、そこを踏まえながら反復できる感じがいいんですよ。『昨日はここがちゃんとできなかったから、こうしよう』とか『今日はここをもっとこうしてみよう』というふうに、毎日、自分で目標を変えてやっていけるところが、私には合っている気がします」