クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第263回 シューマン 歌曲集『ミルテの花』
イラスト/なめきみほ
クラシック史上屈指のロマンチストからの贈り物
今日5月20日は、作曲家ロベルト・シューマン(1810~56)の妻にして、ヨーロッパ随一のピアニストと謳われたクララ(1819~96)の命日です。シューマンの人生は、愛する妻クララに捧げられたものといっても過言ではありません。
無名の音楽家だったシューマンと、天才ピアニストとして将来を嘱望されていたクララは恋に落ちるも、シューマンの師であるクララの父ヴィークに大反対されてしまいます。しかし恋愛とは、そこに立ちふさがる障害が大きければ大きいほど、さらに燃え上がるものなのでしょう。執拗な妨害を行ってきたヴィークとの裁判に勝利して結婚することが叶った2人の喜びは、まさに天にも昇るようだったに違いありません。
そして、その情熱から生まれた音楽のなんとすばらしいことでしょう。クララとの結婚を夢見たロベルトが、想いを込めて作曲した歌曲集『ミルテの花』は、結婚式前夜の1840年9月11日、クララにそっと捧げられています。その冒頭を飾る情熱的な第1曲「献呈」こそは、まさにロベルトからクララへの音楽によるエンゲージリングといえそうです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。