クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第264回 マルチェッロ『オーボエ協奏曲ニ短調』
イラスト/なめきみほ
現代最高のオーボエで楽しむバロック時代の名旋律
今日5月21日は、スイスのオーボエ奏者・指揮者・作曲家、ハインツ・ホリガー(1939~)の誕生日です。
ジュネーブ国際音楽コンクールおよび、ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝したオーボエの腕前は伝説。バロックから現代音楽に至るレパートリーの広さは驚異的です。
彼が手がけた数多くの録音の中でも一際印象的な作品が、イタリアバロック時代の作曲家アレッサンドロ・マルチェッロ(1669~1747)の『オーボエ協奏曲ニ短調』でしょう。ホリガーの美しい音色はまさに絶品。作品の美しさが際立ちます。
中でも第2楽章アダージョの哀愁に満ちた美しいメロディは、1970年のイタリア映画『ベニスの愛』のタイトルミュージックに使われた名旋律です。そして、この曲を一躍有名にしたのが、マルチェッロと同時代のドイツの作曲家J・S・バッハ(1685~1750)でした。イタリアの優れた協奏曲に目をつけて研究し、鍵盤楽器用に編曲したバッハの慧眼はさすがです。こちらは、カナダの鬼才グレン・グールドのピアノ演奏がおすすめです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。