クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第267回 ベートーヴェン 劇音楽『エグモント』
イラスト/なめきみほ
文豪と楽聖の共演がここに実現!
今日5月24日は、ベートーヴェン(1770~1827)の劇音楽『エグモント』の初演日です。
スペインの圧政から逃れて独立しようとする16世紀のオランダを背景に、独立運動の指導者エグモント伯ラモラールの悲劇を描いたゲーテ(1749~1832)の戯曲『エグモント』。この作品をウィーンで上演するための音楽を依頼されたベートーヴェンが、敬愛する同時代の詩人ゲーテ作品のために序曲を含めた10曲の劇音楽を作曲。ここに“文豪と楽聖”の豪華な競作が誕生したのです。
中でも、ドラマティックな物語を象徴する印象的な序曲は、コンサートでも単独で演奏されることの多い名曲中の名曲です。初演は1810年5月24日。ウィーンのブルク劇場において、ベートーヴェン自身の指揮によって行われています。
しかしなんと、名高い序曲は初演に間に合わず、6月15日の第4回公演で初めて披露されたというのですからびっくりです。とはいえ、作品の評価は上々。E・T・Aホフマンが絶賛したほか、原作者ゲーテも「ベートーヴェンは真の天才だ」と語っています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。