クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第269回 ラヴェル『クープランの墓』
イラスト/なめきみほ
第一次世界大戦で戦死した知人に捧げたラヴェルの思いとは
今日、5月26日は、フランスのピアニスト、ヴラド・ペルルミュテール(1904~2002)の誕生日です。
彼の経歴の中での特筆事項は、1925年から27年にかけて、ラヴェル(1875~1937)が作曲したピアノ曲のほとんどを作曲者の前で弾いたことでしょう。ラヴェル本人から、譜面に表記されていない記号や指示などのすべてを教え込まれたことはまさに不滅の財産。ペルルミュテールが「ラヴェル弾き」とたたえられるゆえんです。
数多いラヴェル作品の中でも、第一次世界大戦で戦死した知人たちに捧げられた最後のピアノ独奏曲『クープランの墓』はとても印象的です。タイトルにつけられたクープラン(1668~1733)は、ラヴェルが尊敬していた18世紀の作曲家で、いにしえの音楽に対するオマージュの意味も込められた美しい作品です。
冒頭に置かれた「プレリュード」は、さながら戦場に降る雪を仰ぎ見るかのような趣です。そしてそこには、祖国フランスを愛したラヴェルの深い悲しみが垣間見えるようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。