クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第274回 ハイドン『弦楽四重奏曲第67番“ひばり”』
イラスト/なめきみほ
“弦楽四重奏の父”が残した名旋律
今日5月31日は、古典派を代表する作曲家ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)の命日です。
オーストリア生まれのハイドンの作品は、オペラから器楽作品に至るほぼすべてのジャンルを網羅。その総曲数は1000を超えるといわれています。中でも100曲以上の交響曲と、80曲以上の弦楽四重奏を手がけたことはまさに驚異的。音楽にすべてを捧げた77年の偉大な生涯に感服します。
ハンガリーの大貴族エステルハージ家の副楽長や楽長を長く務め、晩年はフリーとなってロンドンを訪問。同地でのコンサートのために12曲の交響曲などを作曲し、聴衆を魅了したことは伝説です。
その特徴は、シンプルな素材を生かす圧倒的な技術力にあるといえそうです。弦楽四重奏においては、67番目に当たる『弦楽四重奏曲第67番“ひばり”』もその1つ。第1楽章冒頭の美しいメロディがひばりのさえずりのようだということから、いつしか“ひばり”の愛称で呼ばれるようになったこの曲は、ハイドン自身の命名ではありません。とはいえ、流れるような旋律は、まさにその名にふさわしい愛らしさです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。