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松本幸四郎 市川染五郎 時代へ挑む [前編]“鬼平”を受け継ぐということ

2024.05.16

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〔特集〕 松本幸四郎・市川染五郎、時代へ挑む [前編] 池波正太郎原作の大ベストセラー時代小説『鬼平犯科帳』。過去に初代松本白鸚さんや二代目中村吉右衛門さんが演じた“鬼平”こと長谷川平蔵役を松本幸四郎さんが、若き日の平蔵・銕三郎(てつさぶろう)役を市川染五郎さんが務めます。劇場版公開に向けて、お二人に意気込みを伺いました。

特集「松本幸四郎・市川染五郎、時代へ挑む」の記事一覧はこちら>>>

幸四郎さん・コート66万円 シャツ18万7000円(参考色) パンツ17万6000円 染五郎さん・コート74万8000円 ベスト(参考商品) パンツ17万6000円/すべてヴァレンティノ(ヴァレンティノ インフォメーションデスク)

「鬼平が色あせず、未来へ続くように」──松本幸四郎

火付盗賊改方の長官(おかしら)として出役するクライマックスの場面での長谷川平蔵は、配下の同心たちとともに火事装束で現場に臨む。“現代の鬼平”として幸四郎さんは赤のピンをきかせた黒ベースのツイードのセットアップに、陣笠の代わりに黒のハットを合わせて。

ジャケット46万4200円 ベスト8万8000円 パンツ17万3800円 スカート7万7000円 靴19万5800円 帽子3万3000円/すべてヨウジヤマモト プールオム(ヨウジヤマモトプレスルーム)

松本幸四郎(まつもと・こうしろう)
1973年生まれ。二代目松本白鸚の長男。1979年『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名し初舞台。1981年『仮名手本忠臣蔵』で七代目市川染五郎を襲名。2018年に十代目松本幸四郎を襲名。『妻は、くノ一』『蟬しぐれ』など時代劇の映像作品にも多数出演している。

多くの人に愛される作品の新たな幕を開ける

累計発行部数3000万部を超える時代小説の傑作『鬼平犯科帳』。原作の池波正太郎さんが執筆にあたりイメージした長谷川平蔵は、幸四郎さんの祖父・初代松本白鸚さんであったといわれています。そのお祖父様のときに映像化された時代劇『鬼平犯科帳』を、叔父の二代目中村吉右衛門さんを経て今、幸四郎さんが受け継ぐことに。


「原作を含めこれだけ長く、多くの方に愛されてきた作品です。祖父が最初に演じましたが、私にとってはリアルタイムで見て共演もさせていただいた鬼平は叔父の吉右衛門というイメージでした。歌舞伎では当たり役を次の世代が継承していくことはよくありますが、『鬼平犯科帳』に関してはあくまでも一ファンであり、いつか自分が演じるとは思ってもいませんでしたね。でも、お話をいただいたからにはお受けする以外の選択肢はない。叔父の平蔵は本当に素敵でしたが、それを真似るのでも避けるのでもなく、今の時代の方々に “やっぱり『鬼平犯科帳』は面白い” と感じていただける新たな鬼平を創りたいと思いました」

幸四郎さんが演じる“鬼平”こと長谷川平蔵。フォトグラファー/太田好治

平蔵はヒーローではなく、人間味溢れるリーダー

火付盗賊改方の長官(おかしら)として“鬼の平蔵”と恐れられる強さや決断力を発揮する傍ら、世情に通じ、配下はもちろん市井の人々や時に悪の道に身を落とさざるを得なかった盗賊たちにまで温かい視線を注ぐ長谷川平蔵。その姿はリーダーなき時代の理想のリーダーといえるのではないでしょうか。

「一番の魅力は “人” が描かれていることですね。平蔵は善人であろうが悪人であろうがまず “人” として接します。許せないことには鬼になりますが、誰に対してもフラットで、きっと何か生きる道があるはずだと考える。その姿勢は、なかなか真似ることのできない平蔵の強さです。でも、決して完全無欠のヒーローではないんです。今回の映画の中でも捕らえなければならない相手を逃してしまったり、罠にはめられたりもする。それを乗り越え、最後は現場に先頭を切って出張っていく。勧善懲悪ではなく人間ドラマだからこそ、多くの方に共感していただけるのかもしれません」

今回の劇場版『鬼平犯科帳 血闘』では、若き日の平蔵を長男の市川染五郎さんが演じていることも話題です。

「“本所の銕” と呼ばれ、放蕩無頼の生活を送った青春時代を描くことで、悪い奴らのやむにやまれぬ事情や生き方を知りつつも、許せないものは許せないという正義感を持って火付盗賊改方の長官を務めている長谷川平蔵の姿がより明確になる。そんな大事な役どころです。京都の撮影所は床山さん、衣裳さんはじめ叔父の鬼平にも携わった素晴らしい職人さんがたくさんいらっしゃって、私自身も育てていただいた場所。染五郎にもそんな現場の空気を経験し勉強してほしいと思いました。私が芝居で役になりきる面白さを知ったのは14歳で『ハムレット』の舞台に立ったときでしたが、染五郎も最近、自分の感情を動かし役を演じる面白さを感じ始めたように思います」

“幸四郎版鬼平” の見どころとは?

「自分が演じてみて改めてすごい作品なのだと実感しています。今回の作品では、これだけ感情的になる平蔵は珍しい、という場面もあります。本気になったら鬼になる。そんな姿をご覧いただき、新たな鬼平を感じていただけたらと思っています」

撮影/下村一喜〈アジャンスヒラタ〉 スタイリング/川田真梨子(幸四郎さん) 中西ナオ(染五郎さん) ヘア&メイク/林 摩規子(幸四郎さん) AKANE(染五郎さん) 取材・文/清水井朋子

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