〔特集〕「京都」美味案内(1)京料理、世界に羽ばたく 日本食文化の継承と発展、世界に向けた発信のため活動する「日本料理アカデミー」。2024年2月、海外の若手シェフを日本に招聘、日本の食文化を体感してもらうとともに次代を担う京都の料亭の若主人と交流する「日本料理フェローシップ」を開催しました。そこで得たものをもとに料亭の若主人が表現した4皿の“新・日本料理”です。
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【菊乃井 本店】(下河原)
潮騒── 海のサラダ
4代目の村田知晴さんは、親交のあるデンマーク「ノーマ」のシェフ、レネ・レゼピ氏が「ノーマ京都」で出した海藻鍋を食べたことから、CO₂排出を抑える意味でも、魚が育つ環境を守るためにも、海藻を取り入れた日本の食文化の魅力を世界に発信したい、と考えました。
あさりのだしを煮詰め、酢と少量の砂糖を足して、幻の海藻であるミリン、スーナと太もずくを漬け込み、ヒュー・アレン氏(オーストラリア「ヴュー・ド・モンド」)が作った、炭で焼くことで花のような香りを抽出したしょうが油を仕上げにかけました。
「調理の科学的なアプローチにも影響を受けました」。
不易流行── 伝統を踏まえつつ、挑戦を続ける
豆乳に裏ごしした生うにを加え、にがりで固めた「うに豆腐」。
「菊乃井」の3代目、村田吉弘さんは、常に進取の精神を持って日本料理と向き合ってきました。室内には、若冲の見事な掛軸など、美術館クラスの調度品がさりげなく飾られ、日本の美意識を伝えます。
3代目吉弘さんと4代目知晴さん。
京都の料亭で楽しむべきは、料理だけではありません。風格ある建物、玄関には打ち水がされています。お座敷に入れば、床には季節の掛物と花、手入れの行き届いた美しい庭、そして女将さんとの会話......。これらすべての要素が料理につながっている──日本料理が総合芸術といわれる所以です。写真は「菊乃井本店」、葵の間の初夏のしつらい。掛物は伊藤若冲「釣瓶に鶏図」、花入は魯山人。女将の村田京子さんがにこやかにお出迎え。
その一方で「食文化は食べる側と作る側が共創するもの」という考えのもと、普通の人が「ちょっと頑張れば楽しめる」価格帯にすることで、日本人の一般的な味覚や感性を、よりよい形で未来へ引き継ごうと心を砕いています。
「菊乃井本店」の初夏の八寸。粽寿司をはじめ、手をかけて仕上げた料理が、青竹の八つ橋、染付舟形向付に涼やかに盛り込まれる。
また、世界の風を取り入れるため、京都市に働きかけ、海外からの研修生を受け入れられるように制度改革するなど、未来に向けての刷新は数え切れません。
4代目を継ぐ知晴さんも「菊乃井を、多くの料理人が巣立つ母体としてゆきたい」と語るなど、思いは継承されています。
江戸末期に建てられた数寄屋造りの建物が緑に映える。
菊乃井 本店住所:京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル下河原町459
TEL:075(561)0015
営業時間:12時~12時30分、17時~19時30分(ともにLO)
定休日:第1・第3火曜
料金:コース昼1万4300円~、夜2万2000円~
※要予約
(次回に続く。
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