「穀物と生活習慣病の関連」研究から知る──全粒穀物の摂取を増やすと生活習慣病が予防できる
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』『行動栄養学とはなにか?』(ともに女子栄養大学出版部刊)など。
健康的な食習慣の高齢女性も全粒穀物の摂取量が足りない
1月号(第1回)で紹介したように「理想の食べ方」を計算した研究から日本の高齢女性の食習慣はとても健康的であることがわかっています。しかし、高齢女性たちにも摂取量が足りない食べ物がたった一つあります。それは「全粒穀物」です。
全粒穀物とは精白していない穀物のことです。お米でいえば玄米、欧米でよく食べられている全粒のオーツ麦、ライ麦、小麦なども当てはまります。胚芽や外皮を取り除いていない分、食物繊維やビタミン、ミネラルなどが豊富です。「近年、さまざまな研究から生活習慣病の予防には全粒穀物がよいことが判明しています」と佐々木 敏先生はいいます。
その興味深い研究結果の一つが図1です。
今月の「食行動」に生かせる注目データ 全粒穀物は生活習慣病の予防に効果的!
このグラフは心筋梗塞、脳卒中、がん、糖尿病など主な生活習慣病がすべて全粒穀物で予防できることを示しています。このような驚くべき結果を出した食べ物は全粒穀物以外にほとんどありません。
「茶碗1杯(約150グラム)のごはんをお米に換算すると約65グラムです。この結果から推測すれば、玄米ごはんを毎日茶碗1杯食べると心筋梗塞と脳卒中の発症を約2割、糖尿病の発症を約3割、がんによる死亡を約1割減らせることになります」
糖尿病予防効果がある食物繊維は穀物由来だけ
図2は食物繊維が多く含まれる食べ物と糖尿病の発症との関連を調べた研究です。この結果から糖尿病を予防するのは穀物に含まれる食物繊維に限られることがわかりました。佐々木先生は、穀物と一緒に食べることで食物繊維の効果は特に大きくなると指摘します。
「全粒穀物が優れているのは栄養素だけではありません。全粒穀物を習慣的に食べている人は生活習慣病の予防に好ましい栄養素が豊富な食べ物(野菜や果物、魚介類など)を一緒に食べていることが明らかになっています。糖尿病の場合も予防効果を期待したいなら食物繊維が豊富な全粒穀物を選び、副菜として野菜をたっぷり食べるのがよいでしょう」
こうした事実を受け、欧米の食事ガイドでは全粒穀物を積極的に食べることをすすめています。「例えばアメリカ農務省は穀物の少なくとも半分は全粒穀物にすることを推奨しています。日本の食事バランスガイドでは全粒穀物について触れられていないものの、その力をよく知り、日々の食事に賢く取り入れることを考えてみませんか」。
●研究の結果と食事の留意点
研究の結果●全粒穀物は主な生活習慣病の予防や延命に効果があった(図1)。
●穀物から摂取した食物繊維のみ糖尿病予防効果があった(図2)。
食事の留意点●全粒穀物の摂取量を日常的に増やす。
●糖尿病の予防や食事療法には食物繊維が豊富な全粒穀物を選び、野菜がたっぷりの副菜を心がける。
参考文献/『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』P.56~65 、図1はP.58 、『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』P.260~268 、図2はP.265 ともに佐々木 敏著(女子栄養大学出版部刊)を参考に作成
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