新茶のおいしい季節がやってきました。日本茶とひと口に言っても、産地や品種によってその味はさまざま。今回は、日本に44人しかいない日本茶鑑定士の一人で、福岡県八女(やめ)市で茶商を営む木屋康彦(きややすひこ)さんに、八女茶の魅力と、おいしいお茶の淹れ方をお聞きしました。
木屋康彦(きや・やすひこ)さん。福岡県八女市星野村出身。木屋芳友園代表取締役社長。日本茶鑑定士。茶商を営む傍ら、全国玉露の淹れ方コンテスト大会実行委員長や、八女伝統本玉露推進協議会販売部長なども務め、八女茶と日本茶の魅力発信を行っている。
最高峰の玉露の産地・八女
八女茶は、福岡県八女市を中心とした周辺地域で生産される日本茶のブランド。室町時代に明(現在の中国)から茶の種子を持ち帰ったことを起源に、恵まれた地形から良質な茶葉を生み出し続け、2023年には発祥から600年を迎えました。
甘味と旨みのバランスが良く、まろやかでやさしい味の八女茶。面積当たりの生産量があまり多くないため、全国的な知名度はさほど高くありませんが、それは通常は四番茶まで(年に4回)茶葉を摘むことができるところ、八女では二番茶までしか収穫しない茶園がほとんどだからだそう。
茶の木を十分に休ませることが、良質な茶葉の育成につながるため、生産量が限られても、一つ一つを大切に育て、高い品質を維持しています。
八女茶の最高級玉露の茶葉。味は、まるで“だし”を飲んでいるかのような強い旨みが特徴。
なかでも「八女伝統本玉露」は、全国茶品評会「玉露の部」で、長年に渡り「農林水産大臣賞」を多数受賞し、「産地賞」は23年連続で受賞している、まさに日本で最高峰の玉露。近年は海外に向けての情報発信も積極的に行い、“UMAMI(うまみ)”をしっかり感じられる八女茶への注目が高まっています。
日本茶の新しい楽しみ方
「最近はペットボトルでお茶を飲む人が増え、家に急須がないご家庭も多いと聞きます。お湯を沸かし、茶葉からお茶を淹れるという、かつては日常的だった行為が特別なものになりつつあるのです」と木屋さん。
日本茶鑑定士として、八女茶と日本茶の魅力を伝えるために、商品開発やコラボレーションなど幅広い活動をしている木屋さんが、今、力を入れていることの一つが日本茶と食のペアリング「八女茶の真髄を愉しむ90分のコース」です。
店舗に併設した茶寮で、完全予約制で行うこのコースは、その名のとおり、1時間半もの時間をかけて、お茶にまつわる話をしながら、一煎ずつ丁寧に淹れたお茶を、ゆったり味わってもらうというもの。日本茶を知り尽くした木屋さん自身が吟味した選りすぐりの八女茶が、上生菓子やフルーツなど、お茶の旨味を最大限引き出す相性のよい食べ物とあわせて提供されます。
完全予約制で、価格は1人3300円~。新茶の出荷時期(4月~6月)は休みのため、7月より再開予定。
茶葉の特性を踏まえて、お湯、水出し、スパークリングウォーターなど、淹れ方もさまざまで、「お茶ってこういう味がするものだったのか!」と、日本茶の奥深さと楽しみを再認識できること請け合いです。
「忙しい現代ですが、ここでしか味わえない特別な香り、おいしさ、空間を堪能してもらえたらと思っています」(木屋さん)。
ペアリングコースを提供する会場は、木屋芳友園内の「茶房 星水庵」。川のせせらぎが聞こえる癒しの空間。
自宅で新茶をおいしく淹れるコツ
現在は、製法も保存法も進化したため、一年中どの時期でもおいしい日本茶が手に入るようになりました。とはいえ、やはり新茶は特別。やわらかい新芽の爽やかな香りと旨みはもちろん、古くから不老長寿の縁起物ともされており、この季節ならではの楽しみとして味わいたいものです。
木屋さんによると、新茶のおいしさを最大限引き出す淹れ方は、お湯の温度は低めにし、茶葉を多めに使うことがポイントだそう。温度や時間を測りながらぜひお試しください。
●新茶の淹れ方
1.沸騰させたお湯を、適温(60~70℃)まで冷まして使う。
2.急須に茶葉を8g程度入れる(大さじ一杯がちょうど8g程度になる)。
3.急須はあまり動かさず、そのまま1分程度待つ。
4.茶葉が少し開いてきたら、湯飲みに注ぐ。最後の一滴まで残らないように注ぎきることで、2煎目以降も美味しく淹れられる。
木屋芳友園の新茶の出荷は6月上旬まで続く。ホームページからも購入可能。
普段のお茶はペットボトルやティーパックなどで気軽に楽しんでいる方も、新茶でほっと一服してみませんか。
木屋芳友園(きやほうゆうえん)/茶房 星水庵(さぼう せいすいあん)福岡県八女市星野村4573-4
URL:
https://www.horyouen.co.jp/