クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第275回 ビゼー オペラ『真珠採り』
イラスト/なめきみほ
ビゼーの窮地を救った傑作オペラ
今日6月1日は、真珠の日です。6月の誕生石が真珠であることから1965年に制定されたこの記念日には、真珠の研究や啓蒙に加え、日本の真珠産業を発展振興させる思いが込められています。
さて、クラシック音楽における真珠といえば、フランスの作曲家ビゼー(1838~75)のオペラ『真珠採り』が有名です。
名門パリ音楽院において華々しい成績を収め、音楽家の登竜門「ローマ賞」を獲得。新進気鋭の作曲家として世に出たビゼーでしたが、古典的な作品が好まれていた当時のパリにおいて、新人の作品は全く相手にされず、キャリアは失墜してしまいます。そのビゼーに救いの手を差し伸べたのが、パリ・リリック座の支配人、カルヴァロでした。
彼からの依頼によって作曲されたオペラ『真珠採り』は、批評家からの酷評とは裏腹に、聴衆からは大好評。今やビゼーの代表作となった名作です。中でもテノールのアリア「耳に残るは君の歌声」や、テノールとバリトンの二重唱「神殿の奥深く」の美しさからは、後に、オペラ『カルメン』を生み出すビゼーの豊かな才能が感じられます。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。