クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第287回 ワーグナー オペラ『タンホイザー』〜夕星の歌
イラスト/なめきみほ
バイエルン国王ルートヴィヒ2世の夢の跡
今日6月13日は、バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845~1886)の命日です。
オペラや建築に魅了されて破滅的な浪費を繰り返し、「狂王」と呼ばれたルートヴィヒ2世の数奇な生涯は、ヴィスコンティ監督による1972年公開の映画『ルートヴィヒ』に美しく描かれています。
幼い頃からの憧れであったワーグナー(1813~83)に入れ込み、彼の作品の専用劇場である「バイロイト祝祭劇場」建設や、中世騎士伝説の具現化である「ノイシュヴァンシュタイン城」の築城などはまさに浪費の極み。しかし今では、ともにバイエルン地方随一の観光名所となっているのですから素敵です。
このルートヴィヒ2世のイメージにピッタリな名曲が、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』の中の名高いアリア「夕星の歌」ではないでしょうか。竪琴を奏でつつ星の下で自らの想いを告白する男の姿は、精神に異常をきたしてさまよう狂王の姿に重なります。
星はいにしえより、人々の心を慰撫する役割を担っていたようです。そしてそこに添えられた音楽のなんと美しいことでしょう。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。