クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第288回 モーツァルト『ピアノ協奏曲第23番』
イラスト/なめきみほ
2人の巨匠の信頼の証がここに
今日6月14日は、イタリアの指揮者、カルロ・マリア・ジュリーニ(1914~2005)の命日です。
ロサンジェルス・フィルハーモニックの音楽監督などを務め、高い名声を得ていたにもかかわらず来日することがなかった理由は、夫人の病気によって、1984年以降の活動範囲をヨーロッパに限定したためだと伝えられます。
さまざまな名盤を残したジュリーニの業績の中でも、一際異彩を放つのが、20世紀最高のピアニストの1人、ウラディミール・ホロヴィッツ(1903~89)との共演によるモーツァルトの『ピアノ協奏曲第23番』です。1987年に実現したこの録音は、2人の巨匠の信頼の証。伝説のピアニストが残した“唯一のモーツァルトのピアノ協奏曲”となったのです。
録音とともに収録された映像は一見の価値あり。自由気ままなホロヴィッツと、それを見守る穏やかなジュリーニによる録音風景は微笑ましさの極みです。1786年に作曲されたこのすばらしい協奏曲は、モーツァルトの充実期に書かれた古典派最高峰のピアノ協奏曲といわれています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。