新世代の鍼灸師に訊く 第7回(1) 鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
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更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「不眠の悩み」
田中晃一先生(オハナ鍼灸マッサージ治療院)
副院長 田中晃一(たなか・こういち)先生
1981年、埼玉県生まれ。早稲田医療専門学校東洋医療鍼灸学科を卒業後、同専門学校講義助手などを経て、埼玉医科大学東洋医学科研修生に。在籍中に人間総合科学大学人間科学部人間科学科でこころとからだ、環境・社会について総合的に学ぶ。大学卒業後、埼玉医科大学東洋医学科スタッフなどを経て妻・雪枝氏が開業していたオハナ鍼灸マッサージ治療院に入職。2012年より副院長。
原因となる痛みや症状を軽減したうえで、交感神経の緊張を和らげて安眠へと誘う
オハナ鍼灸マッサージ治療院の田中晃一先生は、奥様である院長の雪枝先生とともに日々の診療に取り組んでいます。
雪枝先生は子育て世代の女性から、田中先生は更年期世代の女性からの支持が多いという。得意分野を生かしつつ協力して診療するのが2人の強み。
不妊治療や産前・産後のトラブルなど婦人科系疾患の治療を得意としているため、患者さんの7~8割は女性ですが、長年通っているうちに夫婦や親子で来院するようになる人も少なくありません。「治療院の名前の『オハナ』は“家族や仲間の絆”を意味するハワイ語ohanaに由来します。人と人とのつながりを大切にした、温かい治療を提供したいという思いでやってきたので、家族ぐるみでかかりつけ鍼灸院のように利用していただけるのは嬉しいかぎりです」。
即効性が期待できる五兪穴(ごゆけつ)を刺激して副交感神経を高める
田中先生が多くの患者さんをサポートする中で、いわゆる主訴として不眠に悩まされている人はそれほど多くないといいます。「しかし、よくよく話を聞いてみると眠りの質が低下している人はかなりの割合でいます」。首・肩が凝っている、頭痛がする、悩み事や心配事がある、仕事が忙しいなど、さまざまな原因や理由で眠れなくなっているのです。
「痛みや不快な症状が不眠の原因の場合は、それらを鍼灸治療やマッサージ治療によって軽減することでよく眠れるようになります。一方、不眠が慢性化していると“眠れない体質”に体が変化してしまっていて同じ治療をしても効果が見られない人もいます。このベースにあるのは交感神経の緊張です」
例えば手に汗をかきやすかったり呼吸が浅かったりするのは副交感神経が優位にならず、交感神経が緊張状態に置かれたままになっていることを示しています。
そこで、田中先生は交感神経の緊張を緩めるために副交感神経を刺激する治療を施します。このときに活用するのが「五兪穴」です。東洋医学の概念によると、経穴(ツボ)の中には特に重要な作用をする特定の経穴があります。五兪穴もその一つで、手と足の指先から、肘ひじ、膝関節に向かって5つの経穴(井〈せい〉穴、滎〈えい〉穴、兪〈ゆ〉穴、経穴、合穴)が並んでいます。
即効性が期待できる腕の五兪穴のうち、触って反応があったツボを鍼で刺激する。
「五兪穴は副交感神経を高めるのにほかの経穴よりも即効性が期待できます。これらの経穴のうち、人によって効果がある場所は違うため、皮膚に触って反応を確かめながら、その経穴を探して刺激します。効き目が早い人では施術中からぐっすり眠ってしまうこともあります」
刺激の方法は、鍼、灸、マッサージの中から患者さんの体質や症状に応じて最適なものを選んでいます。「冷えが体質のベースにある人は灸が効果的な場合もありますし、精神的な原因の場合は鍼によるごく少量の刺激にとどめます」。
冷え体質には心地よい刺激の灸治療を。「失眠(しつみん)」と「湧泉(ゆうせん)」のツボも不眠に効果的。
セルフケアを併用することで“眠れる体質”を取り戻す
さらに、田中先生は根本から不眠を解消するために眠れなくなっている体質を元の状態に戻していくことを目指します。「それには定期的な鍼灸治療とともに、患者さんによるセルフケアが欠かせません。しっかり取り組むことで鍼灸治療の効果も長く持続します」。
田中先生が指導するセルフケアは就寝前のルーティンとして毎晩行うのがポイントです。「交感神経の緊張が続く活動中は浅い呼吸になっているため、布団に入ったら最初に腹式呼吸で呼吸を整え、心身をリラックスさせた後、爪もみ療法で副交感神経をさらに刺激して入眠しやすくします」。
人間科学を学んだことで心理的アプローチに着目し問診も重視するように。相手との距離感に配慮しながら丁寧に話を聞き取る。
また、患者さん自身のさまざまな気づきがセルフケアへの意欲を高めるため、体調や生活習慣を一緒に振り返る問診は初診時には30分以上の時間をかけています。
「セルフケアによって交感神経と副交感神経をうまく切り替えられるようになると、体質が元に戻ってきて睡眠の質も格段によくなります。それは週末になると体調を崩すといったトラブルを回避することにも役立ち、安定的に健康を維持できるようになるでしょう」
診療案内
埼玉県富士見市ふじみ野西3-12-1 ふじみ野リゾートビル2階-B
TEL:049(266)3810 予約制
診療時間/9時~20時(最終受付19時)
休診日/月曜・祝日
診療費/初診料2200円(税込み)、鍼灸治療5500円(税込み)、美容鍼灸1万1000円(税込み)、マッサージ治療 5500円(税込み)/50分~
https://www.ohana-hari.com/ ※次回へ続く。
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