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災害に強い家づくりとは?「WPC工法(コンクリート住宅)」を大研究!

2024.06.03

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【建築】あまり世に知られていない驚異の防災住宅WPC工法とは一体何か?

旧建設省主導の国策として生まれた防災のための工法

1955年に建設省の主導で官民一体となって開発した「WPC(Wall Precast Concrete)工法」は、強固なコンクリートパネルを箱型に組み立てる工法。地震の揺れや台風を「面」で受け止め、1か所に大きな力がかからないので、家屋が傾いたり、つぶれたりといったことが起こりません。

建物全体で力を受け止める箱型工法
外から力が加わったとき、柱や接合部分に負荷が集中する「軸組工法」に対して、WPC工法は、床、壁、天井という「面」で受け止める。そのため負荷が集中せず、地震や台風にも高い抵抗力を発揮。

阪神・淡路大震災や熊本地震などの被災地においても、WPC工法の建物はほぼ損傷なく、住む人の命を守りました。そのため、多くの人が避難所で不自由な生活を余儀なくされるなか、WPC住宅の住民は慣れ親しんだわが家で過ごすことができたのです。

WPC工法は、木造家屋が密集していた地域を中心に東京市(当時)の4割が焼け野原と化した関東大震災の教訓から、「住宅の不燃化、耐震化」を政策として打ち出していた政府肝入りの研究開発の成果です。コンクリート住宅はもともと、建設現場で型枠にコンクリートを流し込んで造るのが一般的ですが、WPC工法では先に工場でコンクリートパネルを造り、現場で組み立てます。


WPC住宅メーカー「レスコハウス」は、3つの理由で、より強固で耐久性のあるコンクリートができ上がるといいます。1つ目は、現場だと型枠に流し込む際に必要となる水分がいらないので、水分量が少ない「硬練り」の密度の高いコンクリートになること。2つ目は、型枠にコンクリートを隙間なく充塡させる際、工場生産の場合は1分間に6000回振動する高周波振動台で隅々までむらなく充塡できること。現場施工の場合は職人が電動工具で振動を与えますが、水分が分離してしまうこともあります。3つ目は、コンクリートを型枠に充塡させた後、高温多湿の「蒸気室」に入れることで、早期にコンクリートの強度を上げられること。温度や湿度が変化する屋外で行う現場施工ではなしえません。

圧縮強度は現場打ちコンクリートの約1.8倍
「圧縮強度」とは製品を押しつぶしたときに破壊されずに耐える力を数値で表したもの。現場で完成させる「現場打ち」より、温度や湿度が安定した工場で生産したコンクリートのほうが圧倒的に強い。資料提供/ヒノキヤグループ

こうしたことから、工場で製造するコンクリートパネルの耐久性は180年を超えるともいわれ、瀬戸大橋や東京湾アクアラインの海底トンネルにも使用されています。

これほど防災力の高いWPC住宅が、70年近く前から存在しながら、災害大国である日本にまだまだ少ないのはなぜでしょうか?かつては20社ほどあったWPC住宅メーカーが数社に減ったことも一因かもしれませんが、最大の理由は、木造や鉄骨造の家に比べて価格が高いこと。しかし、近年は企業努力などから、他の工法に近い価格帯で求められるものも出てきました。また、かつては「防災重視で見た目はいま一つ」といった声もありましたが、現在は各社、デザイン面に力を入れたモデルも開発。コンクリートの弱点とされる結露についても、PCパネルに高性能断熱材を密着させることで抑えています。

改良され、生き延びるためのシェルターと快適な住まいが一つになったWPC住宅。いつ災害が起きてもおかしくない時代に最も必要とされる建築かもしれません。

構造別法定耐用年数の比較
構造別法定耐用年数とは、国税庁が定めた「その建物がどれくらい使用でき、価値があるのか」を表す基準。コンクリートが圧倒的に長く、WPC住宅メーカー「百年住宅」では構造軀体に「最長100年保証」を謳っている。図表/ワークスプレス

実証──奇跡の防災力

WPC住宅がどれほど災害に強いかは、過去の数々の大災害で証明されています。壊滅的な打撃をこうむった地域で壊れることも傾くこともなく、ほぼ無傷で建つコンクリートの建物。その姿は胸に迫るものがあります。

東日本大震災(2011年3月11日)

資料提供/百年住宅

宮城県仙台市のWPC住宅。コンクリートは重量があるため、海岸から約700メートルという立地にもかかわらず、流されずにすんだ。この家のおかげで木造の隣家の住人も助かり、深く感謝されたという。

阪神・淡路大震災(1995年1月17日)

資料提供/ヒノキヤグループ

兵庫県神戸市のWPC住宅(右)。木造住宅の隣家が全壊してしまったなか、窓ガラス一枚割れなかった。家族と親類縁者の避難所となり、しばらくの間、5家族で暮らした。

広島土砂災害(2014年8月20日)

資料提供/ヒノキヤグループ

広島市のWPC住宅。被災時は竣工から29年が経過していたが、2㍍の高さにまで及んだ土砂にも損壊することなく耐えた。この広島土砂災害で構造的損傷を受けたWPC住宅は皆無だった。

WPC工法の「百年住宅」が開発。業界初の屋上に設置する津波シェルター

「百年住宅」が2023年に発表した「RC-BOX」2棟。梁の目立たないシンプルな外観が好評。

「百年住宅」が「津波シェルターペントハウス」を開発したきっかけは、東日本大震災の際、家の中に海水が流れ込んだにもかかわらず、天井に近い壁にかけてあった額縁が残っていたのを目にしたこと。この出来事をヒントに、洗面器を下向きにして湯船に沈めると、洗面器の中に空気が残り、水位が上がらない原理を応用し、「空気だまり」ができる空間を作ったのです。

一見物置のようで、WPC住宅の一部である津波シェルター。写真/百年住宅

船舶用の耐水ドアが内部を密閉。津波は通常3時間で引くという。撮影/本誌・西山 航

屋内の階段を上りきった、屋上に続く踊り場は、家が水没しても、4人が約8時間生存可能なシェルター。周辺道路の崩壊や夜間の停電などで避難所への移動が困難なときも安心です。



(次回に続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年06月号

家庭画報 2024年06月号

撮影/本誌・西山航 取材・文/清水千佳子 図表・イラスト/ワークスプレス

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