広島県大竹市に昨年オープンした「下瀬美術館」が開館1周年を迎えました。
こちらは広島を本社とする建築金物の総合商社、丸井産業の代表取締役である下瀬ゆみ子さんが、先代から受け継ぎながら形成してきた500以上もの膨大な美術コレクションを保存・公開する施設。「アートの中でアートを観る。」をコンセプトにしており、約4.5ヘクタール(東京ドーム1個分)という広大な敷地内にある美術館の建物や展示室、併設する宿泊施設をすべて建築家の坂茂さんが設計し、世界初の可動展示室というユニークな展示方法があるのも魅力です。
36本の木を1本にまとめた大きな柱が2つあり、そこから放射線状に木が広がるインパクトのある作り。ミュージアムショップとカフェも併設。
ミラーガラスのエントランスを抜けると、ホールには地面から放射線状に天井まで伸び、奥行きを感じさせる木のモチーフが目に飛び込んできます。その存在感に圧倒されつつ、窓の向こうに目を向けると、瀬戸内海の島々が見えてきて、絶景への期待も高まります。
美術館屋上の望洋テラスから見た「可動展示室」もまた絶景。
そして美術館最大の絶景”映え“ポイントが水盤に浮かぶ「可動展示室」です。 広い湖のような水盤の上には、ピンクや黄色、水色、紫など8色に彩られたカラフルな8つのキューブからなる展示室が連結されながら浮かんでいて、これらが水面の反射や瀬戸内海の空や海の青に一体化して、時刻や天気によってさまざまに美しい表情を見せてくれます。
キューブの色は、エミール・ガレのガラス作品の色からインスピレーションされ、それぞれの展示室は普段は水盤に着底しているのですが、水嵩を上げたときは、水の浮力で浮かばせて、配列をいろいろな形態に変えながら動かすことができる仕組みになっています。こうすることで、訪れる来館者たちにも新しい展示方法を新鮮に楽しんもらうことを想定しているのだそうです。
夕暮れ時の水盤に浮かぶ展示室もまた美しい。
美術館外にある「エミール・ガレの庭」にも、展示室の色のトーンが映える。
美術鑑賞を楽しんだ後は、当美術館の所蔵コレクションにも多く登場するアール・ヌーヴォーを代表する工芸家、エミール・ガレの名を配した「エミール・ガレの庭」で季節の草花に触れるひとときを。ガレは、植物モチーフを使った作品を多く手掛けると同時に植物学者でもありました。ガレの作品に登場する花々を、作品に思いを馳せながら鑑賞するのもよいでしょう。
「開館一周年記念 加山又造──革新をもとめて」特別展示で日本画法の歴史を学ぶ
加山又造「音」部分(1960)
今年で開館1周年を迎えた下瀬美術館では、本館から先に登場した可動展示室にわたり、全館で「開館一周年記念 加山又造 ―革新をもとめて」という特別展示が現在行われています。
昭和から平成の時代に日本画の旗手として世界に名を広め活躍した日本画家、加山又造(1927-2004)氏の多様な造形の軌跡を追う展示スタイルで、初期に描かれた動物や猫の作品から自然を描いたもの、また晩年の水墨画に至るまで、多様な画期的画法を用いて製作された代表作品の数々が並びます。
左・加山又造「若い白い馬」(1950頃)、右・加山又造「迷える鹿」(1954)。 初期に発表された動物シリーズ。ラスコーの洞窟壁画に影響を受けた鹿と山の絵は、顔料に金や銀を用い、これからどうしていこうという戦後の暗い心情が投影されている。
加山又造「猫」部分(1960) 猫を26匹飼っていたという加山又造は、猫の絵を好んで描き、人気を博した。猫の型紙を作り、金の顔料を用いて筆で1本1本毛なみを描いていったという。
加山又造「雪煙ノ嶺」部分(1985) 他の人が見たことがないような雪山を描こうと考えた又造氏は、一度描いた絵の表面を水で洗い、胡粉を重ねて立体的な盛り上がりを作ることで山肌を表現した。
加山又造「黄山雲海」(1995) 「三遠法」と呼ばれる技法を用いた水墨画。下から、水平から、上からの遠近法を使い、エアブラシで臨場感を出していった。
加山又造「おぼろ」と「華扇屏風」(本画:山種美術館所蔵)の2作の陶板美術作品が水盤に浮かぶ。
また期間中には可動展示室が浮かぶ水盤の上に、加山又造氏の屏風作品を原画とした陶板美術作品も特別展示されます。この陶板アートは、大塚オーミ陶業による「陶板名画」の技法を用いて、シルクスクリーンで転写をした絵画を焼き物の陶板に転写して焼き上げたもの。日中に水盤に浮かぶ景色も素敵ですが、期間中には日にち限定で「ナイトミュージアム」として夜のライトアップが行われる日もあり、昼とは表情を変えた美しさも必見です。
美術鑑賞に加えて「海辺の建築作品」に泊まりたい! 異なる10棟の「アート・オーベルジュ」
「キールステックの家」水辺のヴィラ5棟は、特徴的な断面を持つオーストリアの木造素材「キールステック」を壁面や屋根に使用し、内装を変えた5棟が並ぶ。
下瀬美術館ではアートや絶景が堪能できることはもちろんですが、坂茂さんが手掛けた「海辺の建築作品に泊まる。」をコンセプトとする宿泊施設「Simose Art Garden Villa」も見逃せないポイントです。
敷地内には木々に囲まれた「森のヴィラ」が5棟、水盤に面した「水辺のヴィラ」が5棟あり、「森のヴィラ」の4棟は、1990年代に日本に実在した別荘建築がリメイクされています。どれも建物のエクステリア、インテリアともに非常に個性的な作りになっていて、滞在しながら建築、そして目の前に広がる瀬戸内海の島々の絶景も楽しむことができます。
「壁のない家」1997年、軽井沢に建てられた別荘をヴィラとしてリメイク。
「紙の家」坂建築を象徴する、再生紙の「紙管」を主構造にした棟。
美術館で隅々までアートに浸った後は、部屋で絶景を楽しみながらバスタイム、あるいはインクルーシブで用意されたシャンパーニュでアぺリティーボしつつ、寛ぎのひとときを。
そして夜のディナーでは地元の海山の幸を生かしたフランス料理を堪能、という流れで心身ともに満足できるステイになりそうです。
宮島を望む絶景レストラン。
希少な名画や作品に触れ、その歴史を学びながら、エミール・ガレの花咲く庭の草花に癒され、瀬戸内海の絶景を臨む建築作品に泊まって地元の幸に舌鼓──ひとつのエリアで、多方面の贅沢を一度に叶えることが出来る”アートなオーベルジュ“Simose Art Garden Villa” 。下瀬美術館と合わせて、今年の夏、旅先の一考に入れてみてはいかがでしょうか。
下瀬美術館住所:広島県大竹市晴海2-10-50
電話:0827-94-4000
URL:
https://www.simose-museum.jp開館時間:9時30分~17時(最終入場16時30分)
休館日:月曜(祝日の場合は開館)
料金:一般1800円/高校生・大学生900円/中学生以下無料
Simose Art Garden Villa電話:0827-93-1600
URL:
https://artsimose.jp/villa/「開館一周年記念 加山又造──革新を求めて」会期:2024年6月30日まで
「エミール・ガレ没後120年 ガレのある部屋──ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」会期:2024年7月7日~11月24日(予定)
※11月14日(木)は臨時休館