クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第295回 ムソルグスキー『ホヴァーンシチナ』
イラスト/なめきみほ
管弦楽法の大家といわれる由縁とは
今日6月21日は、ロシア五人組の作曲家、リムスキー=コルサコフ(1844~1908)の命日です。
軍人を多く輩出してきた貴族の家系に生まれ、自らもロシア海軍の水兵として従軍したリムスキー=コルサコフは、1861年にバラキレフと知り合ったことで音楽家への道を歩み始めます。
遠洋航海の経験を生かした『シェへラザード』を筆頭に、『スペイン奇想曲』『ロシアの復活祭』など、華麗な響きを駆使した作品の数々は、“管弦楽法の大家”と称えられたリムスキー=コルサコフならでは。その技術は、教え子であるストラヴィンスキーにも大きな影響を与えています。
特筆すべきは、五人組の仲間であったムソルグスキーやボロディンが残した未完の作品を演奏可能な状態に仕立て上げた編曲の手腕でしょう。その筆頭に挙げられるムソルグスキーのオペラ『ホヴァーンシチナ』は、遺稿をすべて引き取ったリムスキー=コルサコフが、1882年に加筆完成させて世に出したムソルグスキーの代表作です。
その後、ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチによる編曲版も登場したこの名作の価値を、いち早く見抜いたリムスキー=コルサコフの慧眼に拍手喝采。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。