クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第311回 マーラー『ピアノ四重奏曲“断章”』
イラスト/なめきみほ
若きマーラーの知られざる名旋律
今日7月7日は、オーストリアの作曲家、グスタフ・マーラー(1860~1911)の誕生日です。
ドイツ後期ロマン派を代表する“交響曲作曲家”として知られるマーラーは、他ジャンルにおいて「歌曲」のみを手がけたイメージが残ります。しかし、学生時代の習作として書かれた『ピアノ四重奏 断章イ短調』からは、マーラーの別の表情が垣間見えます。
ウィーン音楽院在学中の16歳のマーラーが、作曲家の試験のために提出したとされるこの作品の美しさはまさに格別。その後、室内楽や器楽作品をほとんど手がけなくなったことが惜しまれます。
そして、この作品を素敵な形でクローズアップしたのが、レオナルド・ディカプリオ主演による2010年公開のアメリカ映画『シャッター・アイランド』でした。医師の住む館の中に流れる音楽に対して「これはブラームスか?」「いや、マーラーだ」という会話が、美しい音楽と相まってとても印象的に響きます。マーラーの知られざる名作を採用した同作の関係者に拍手喝采!
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。