意外です。歳をとると幸せ度は落ちるものと思っていました。前野先生 私自身の実感でもあるのですが、60代になると“こうあらねば”といったこだわりが自然に手放されて、細かいことはどうでもよくなってきます。それはある意味とても幸せなこと。体のあちこちに不具合が出始めても、「還暦を過ぎればこんなもん。多少の衰えはしょうがない」と気にならない。若い頃のようにがむしゃらではなく、程よく力の抜けたいい意味でのあきらめも出てくる──。もはや年齢に抗おうとしないのでとても気が楽です。
マドカさん 多くの場合、60~70代になると親の老いを目の当たりにし、看取りも経験します。自分の先も見えてきて、「今のうちに人生を楽しもう。やりたいことをやろう」と開き直れるのかもしれません。
前野先生 さらに80代を超えて超高齢者になると、「老年的超越」(物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化)に至るとされています。
高齢期に得られる「老年的超越」
日本人高齢者における老年的超越(高齢期に高まるとされる世界観の変化)の特徴。
増井幸恵:日本版老年的超越質問紙および改訂版(JGS・JGS-R)の下位因子とTornstamの老年的超越の内容との対応,日本老年医学会雑誌2016;53:210-214より抜粋
上の図に示したような考え方や行動はいわば悟りに近く、実に幸せな境地ではないでしょうか。……なので多くの人は心穏やかに歳を重ねていくはずなのですが、なかには加齢をネガティブにしか捉えられない人もいます。