サイレントキラーの病に備える 第7回（1）腹痛やおなかの膨らみといった自覚症状が出た頃には進行していることが多い卵巣がんは、サイレントキラーとして知られています。日本婦人科腫瘍学会の卵巣がんの治療ガイドライン改定小委員会委員長で岩手医科大学 産婦人科学講座 教授の馬場 長先生に卵巣がんの特徴について解説していただきます。
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“気づいたときには手遅れ”にならないように「卵巣がん」
［お話を伺った方］
岩手医科大学 産婦人科学講座 教授
馬場 長（ばば・つかさ）先生
1998年京都大学医学部卒業後、米国デューク大学婦人科腫瘍学研究員、京都大学大学院医学研究科器官外科学婦人科学産科学准教授などを経て2018年から現職。専門は婦人科悪性腫瘍、腹腔鏡手術、ロボット手術。日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・指導医、日本産科婦人科内視鏡学会 技術認定医。
閉経後から60代後半までは特に注意が必要
卵巣は下腹部の奥にある親指ほどの大きさの臓器で、子宮の左右にあり、子宮とは卵管でつながっています。
卵巣にはさまざまな腫瘍ができます。その性質によって、良性、良性と悪性の中間である境界悪性、悪性の3つに分類されます。このうちの悪性の腫瘍が卵巣がんです。「卵巣がんは閉経前後から増え始め、60代後半までがピークです」と馬場先生。
全国がん登録のデータによると、2019年に卵巣がんが見つかった人は1万3000人強で、生涯に卵巣がんになる女性は62人に一人と女性の1パーセント強という割合です。女性のがんの罹患数の上位である乳房、大腸、肺、胃、子宮のがんに比べると多くはありませんが、見つかりにくいがんで、がん検診の対象となっていないことから、注意が必要です。
特有の症状はなく、受診が遅れがちになる
卵巣がんは、近年、その成り立ちが徐々に明らかになっています。それに伴い、分類が細かくなり、治療法も細分化されてきました。
卵巣の表面にできる上皮性腫瘍が約9割と最も多く、ほかに、卵巣内で卵胞に包まれている卵子ががん化する胚細胞腫瘍が5パーセントほどあり、これは10～20代に多いことがわかっています。また、エストロゲンなどのホルモンを産生する性索間質の腫瘍が4パーセントほどです。ここでは主に上皮性腫瘍について述べます。
卵巣がんの特徴
●症状が出るのは進行してから
●がんの中で最も大きい腫瘍を形成する
●種類が多く、それによって進行の仕方や悪性度が異なる
●遺伝的に卵巣がんや乳がんになりやすい人がいる
●子宮内膜症やそれによるチョコレート囊胞の経験者は発症リスクが高い
●子宮頸がん検診などでは見つかりにくい
●がんかどうかの診断は手術による腹腔内の観察と、摘出した腫瘍の病理検査によって行われる
卵巣がんの多くは自覚症状がなく、おなかまわりが急に太ってきた感じがする、腹痛がある、おなかが張って便秘がちといった症状が出てきたときには進行していることが多いのです。卵巣がんがサイレントキラーと呼ばれるゆえんです。
「上皮性腫瘍では、1～2か月の間に急激にがんが大きくなります」。
ただ、そのような症状が出始めても卵巣がん特有のものというわけではないため、「忙しい日々の中で、もうちょっと様子をみようと受診を先延ばしにされることが多く、その間にがんが進行することがあるのです。そういう点も卵巣がんがサイレントキラーとなりやすい理由です」。
なお、卵巣がんでは子宮頸がんや子宮体がんでみられる不正出血は起こりません。
（次回へ続く）
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