「たんぱく質サプリメントの摂取」研究で知るサプリメントを利用しても筋肉や筋力は増えない!?
東京大学名誉教授
佐々木 敏（ささき・さとし）先生
京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学（EBN）をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」（厚生労働省）の策定で中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』『佐々木 敏の栄養データはこう読む！』（ともに女子栄養大学出版部刊）など。
食事からの摂取量が十分だと体は余分な栄養素を使わない
50歳を過ぎると筋肉や筋力の衰えが気になり始めます。そして、筋肉のもとになるたんぱく質をできるだけ多く補給しようとプロテインを利用することを考える中高年女性は少なくありません。たんぱく質のサプリメントをとると、筋肉量はどのくらい増えるのでしょうか。
「世界中にたくさんあるプロテイン研究の中でも下の図1の左は丁寧に行われた12の研究結果をまとめたものです。横軸は個々の研究におけるサプリメントの効果を示し、その値がゼロ点よりも右にあると筋肉が増え、左にあると筋肉が減ったことを表しています」と佐々木先生は解説します。研究結果のまとめは図下部の◇で示されており、わずかに筋肉が増えたことは読み取れるものの、統計学的に増えたとはいえなかったのです。「たんぱく質を多くとっても筋トレをしなければ筋肉は増量しません。そこで、筋トレを併用した研究結果を集めてみました。それが図1の右に示したものです」。
今月の「食行動」に生かせる注目データ たんぱく質の摂取量は9割の人で足りている
たんぱく質サプリで筋肉は増えない
図の横軸は個別の研究結果を表す。筋肉が増えたことを示す横軸もあるが、全体をまとめた結果は増えたとはいえなかった。
この18の研究のうち、筋肉が増えた結果になったのは一つだけで、左の12の研究結果同様、統計学的には増えたとはいえない結論になりました。
筋肉はたんぱく質から作られるのに、どうしてこんな不思議な結果になるのでしょう。
「それは、研究対象者のたんぱく質がすでに飽和していたからです」と佐々木先生は指摘します。
図1の研究の参加者たちがサプリメントをとる前に食事から摂取していたたんぱく質（平均値）は、体重1キロあたり1・1～1・2グラム／日でした。体重50キロの人では1日あたり55～60グラムのたんぱく質を摂取していることになります。18歳以上の女性の推奨量は1日50グラムなので、これは十分な量といえます。
「そのため、それ以上のたんぱく質をとっても体は足りていると判断し、サプリメントの効果が得られなかったと考えられます」と佐々木先生はタネ明かしをします。
参考文献／『行動栄養学とはなにか？』佐々木 敏著（女子栄養大学出版部刊）P.176～185、図1はP.179、図2はP.183を参考に作成
プロテインブームの影響で健康に関心の高い女性ほどたんぱく質の摂取量が足りていないと思い込んでいるようにも見受けられます。しかし、「たんぱく質摂取量の分布（図2）を見ると9割の人は今の食事内容で心配なさそうです。筋肉の衰えが気になり始めたら最初に取り組むべき対策は自分のたんぱく質摂取量を知り、毎日の食事を見直すことです」と佐々木先生はアドバイスします。
●研究の結果と食事の留意点
研究の結果●筋トレをしてもしなくても、たんぱく質のサプリメントで筋肉量が増えるとはいえない（図1）。
●日本人の中高年女性の9割は食事からとるたんぱく質の摂取量で足りている（図2）。
食事の留意点●たんぱく質の摂取量が足りていると、それ以上の量をとっても体は使わない。故に筋肉の減少を食事で予防したいときは自分のたんぱく質の摂取量をまず知ることが大切。
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