〔特集〕ミラノデザインウィーク探訪 ミラノサローネとは、「ミラノサローネ国際家具見本市」の通称です。年間わずか6日間の家具の見本市が、組織的には無関係のミラノ市内のデザインイベント「フォーリサローネ(サローネの外)」の活動を促し、「ミラノデザインウィーク」と呼ばれる“世界最高峰のデザインの祭典”を生み出すことになりました。ミラノがなぜ「世界のデザインの首都」になりえたのか。その答えを求めて、世界最大の家具見本市と世界のデザイン潮流を牽引するキーパーソンを探訪。その謎を紐解いていきます。
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ミラノデザインウィークでキッチンの新潮流を探る
文/本間美紀(キッチンジャーナリスト)
ミラノで見た最新キッチン デザインもAI技術も進化
ミラノサローネ国際家具見本市では、隔年でキッチンの専門見本市「エウロクチーナ」を開催します。2つのホールを使って105社のキッチンブランドやビルトイン家電メーカーが出展。
足並みを揃えるようにミラノ市街でも、キッチンブランドが新作の発表を行います。実用的で美しいキッチンだけではなく、未来のライフスタイルを象徴したコンセプト展示も少なくありません。
たとえば「There is no kitchen ── キッチンはない、もはやそれ以上のもの」、ドイツのトップキッチンブランド、ブルトハウプはそんな宣言をしました。
キッチンのシステムが拡張して他の居室とシームレスにつながり、大きな空間をつくるのです。キッチンと一体になったテーブルや調理スペースは空間の中央に据えられ、人々を集めます。
キッチンツールが収納できる壁、洗面コーナーやリビング収納までがシステムとして発展し、キッチンメーカーであっても室内空間すべてを同じブランドで統一できるのです。
ブルトハウプだけではなく、多くのキッチンブランドが、暮らしの総合システムとしてのキッチンを提案していました。
もう一つの傾向はインテリアのメインアクセントとなる「塊のようなキッチン」。数年前から天然石は家具でもキッチンでも人気の素材ですが、火山国であるイタリアは希少な石の産地としても有名。調理台から扉まで石を使った彫刻のようなキッチンは、住まいのシンボルとなる一生もののキッチンです。
ガラスキャビネットを組み込んだコレクションボードスタイルもこの数年増えており、食器からアートまで飾れ、世界の富裕層のラグジュアリーライフに欠かせないものとなっています。ヒンジの進化で収納の一部が回転して隠せるキッチンも登場しました。
そしてキッチンに欠かせないのがビルトイン家電。ミラノサローネ会場では「テクノロジー・フォー・ザ・キッチン」と称した家電の専門ゾーンもありました。
AI技術が進み、スマートスピーカーと連動するのは当たり前。低温調理など繊細な温度管理ができるIHクッキングヒーターや、鮮度保持を重視しフードロスを防ぐ冷蔵庫など、最新の技術を各メーカーが競い合いました。
家電のデザインはリビング家具や内装の色のトレンドと足並みを揃え、扉色もベージュやマットブラック、グレーなど、よりインテリアに調和し溶け込む傾向に。
冒頭で紹介した、キッチン空間の広がりとも無関係ではなく、キッチンらしく見えないけれどスマート化で家事効率を上げ、料理の味や仕上がりもしっかり確保する。近い未来に現実になりそうな、家庭での新しい食のシーンが各社で展開されました。
Miele(ミーレ)
ドイツのビルトイン家電、ミーレのブース。近未来的な映像に導かれてブースに入ると、食材を認知して自動調理する「スマートフードID」を搭載した調理家電や、複数の調理家電が連携して料理を仕上げるシステムなど、最新の技術を披露。しっかり話を聞かないと理解できないほど、家電の技術が激変していると痛感。
ミーレ・ジャパン
https://www.miele.co.jp/bulthaup(ブルトハウプ)
8年ぶりにミラノデザインウィークに復活したドイツのブルトハウプ。ブレラ絵画館の中庭にパビリオンを設置。超大型のフリースタンディングキッチンでは、プロの料理人が調理デモを行い、盛り上がりました。
クライス&カンパニー
https://bulthauptokyo.com/SieMatic(ジーマティック)
日本でも人気のジーマティックは、ハンドルレスデザインを進化させた「S2 Next Generation」を展示。回転式のコーナー収納やシークレットサービスというレール内の隠し収納などがデザインと機能を兼ねそなえる。
ジーマティック青山
https://www.siematic-japan.com/minotticucine(ミノッティクチーネ)
ミノッティクチーネのキッチンは天然石や無垢の金属や木材で仕立てるアーティスティックなキッチン。一見してキッチンには見えないミニマリスティックデザインは世界のセレブリティに愛されています。新作は光を透過する石を採用し、神々しいほど。
ミノッティクチーネジャパン
https://www.minotticucine.jp/〔関連記事〕
悠久の美を宿した自然素材のキッチン[ミノッティクチーネ]ステンレスキッチンが復活の兆し?
ここ数年、世界のキッチンは天然石や大判セラミックを使った重厚なキッチンが人気でしたが、今年はステンレスキッチンが目立ちました。耐久性があるのでアウトドアキッチンに採用されたり、プロの厨房風の雰囲気を演出したりと、改めてステンレスの機能美に魅了されました。
コンパクトで可愛らしいアビミスのキッチン。
Abimis(アビミス)
https://abimis.com/en/ ※日本での取り扱いなしアルクリネアはプロ厨房風キッチン「プロキシマ」を発表。ライブクッキングが楽しめる豪邸向けのショーキッチン。
Arclinea(アルクリネア)
https://arclinea.jp/HONMA MIKI 本間美紀『人生を変えるインテリアキッチン』(小学館)などの著書で、インテリアとキッチンが一体になる空間を提唱。ミラノサローネの取材歴は20年以上。近年、日本の家庭でも人気がある海外ブランドキッチンの取材も多数。
(次回へ続く。
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取材協力:ミラノサローネ国際家具見本市
https://www.milanosalone.com/