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甦った「天下一の田舎家」【後編】世代を超えて、時を超えて茶の湯を伝えてゆく

2024.07.03

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〔特集〕甦った「天下一の田舎家」(後編) 名古屋を代表する近代数寄者・森川如春庵。彼が茶の湯の場として過ごした「田舎家」が、数十年の時を経て復元されました。4月の桜咲く頃、益田鈍翁が「天下一の田舎家」と賞賛したその古民家に、如春庵と深いご縁の人々が集い、新しい門出と未来を祝う一会を楽しみました。

・特集「甦った 天下一の田舎家」の記事一覧はこちらから>>

覚王山 日泰寺内に見事に復元された田舎家の前に佇む本日の茶会の主客。

覚王山 日泰寺内に見事に復元された田舎家の前に佇む本日の茶会の主客。

数寄者・森川如春庵の茶空間に集う

数寄者

潮田洋一郎さん(うしおだ・よういちろう)
1953年東京生まれ。数寄者。東京大学、シカゴ大学卒業。LIXILグループ元CEO、元取締役会議長。大師会、光悦会評議員。著書に『数寄の真髄』ほか。

如春庵曽孫
森川真衣さん(もりかわ・まい)
1993年愛知生まれ。如春庵の曽孫。森川家は、信長と対立していた岩倉織田氏の附家老で、一宮に移り住んで400年余の歴史を持つ庄屋の家柄。

谷松屋戸田商店社長
戸田貴士さん(とだ・たかし)
1981年大阪生まれ。3年間のフランス留学を経て2021年に、江戸時代から続く茶道具商・谷松屋戸田商店の14代目当主となる。

前編の記事はこちら>>

薄茶席
如春庵旧蔵 斗々屋茶碗 銘 立田姫

斗々屋茶碗「立田姫」と乾山作の蕪絵茶碗。

斗々屋茶碗「立田姫」と乾山作の蕪絵茶碗。

薄茶席は続き薄の趣向ながら、潮田さんは床の間の掛物を一行書から南画へと掛け替えました。富岡鉄斎が晩年に描いたという仙境図は、仙人が住まう桃源郷の佇まいと中国のタオイズムにも繋がる文人趣味を感じさせます。

74歳の鉄斎が描く仙境図はまさに桃源郷の風情。満開の花とともに中央に描かれる月台を、潮田さんは「仙人が月へと行き来するプラットフォームですね」。また「鉄斎が思い描く桃源郷ってこうだったのでしょう。今回の田舎家が如春庵の桃源郷だとしたら、重なるのではと思ったのです」。

74歳の鉄斎が描く仙境図はまさに桃源郷の風情。満開の花とともに中央に描かれる月台を、潮田さんは「仙人が月へと行き来するプラットフォームですね」。また「鉄斎が思い描く桃源郷ってこうだったのでしょう。今回の田舎家が如春庵の桃源郷だとしたら、重なるのではと思ったのです」。

ふだんから抹茶だけではなく煎茶も嗜む亭主の幅広く俯瞰的な視点により、濃茶席と同空間を用いながらも、ダイナミックに茶の世界を転換してゆくという、茶の湯の醍醐味がこの田舎家の空間で繰り広げられます。

潮田さんの代わりに薄茶点前をする三女の晴子さん。潮田さんのいう雅と鄙のバランスが取れた道具組が田舎家の空間に呼応している。

潮田さんの代わりに薄茶点前をする三女の晴子さん。潮田さんのいう雅と鄙のバランスが取れた道具組が田舎家の空間に呼応している。


薄茶のお点前は潮田さんの三女・晴子さんにお願いして、茶の湯談義、道具談義はまだまだ続きます。

世代を超えて、時を超えて茶の湯を伝えてゆく

潮田 この頃、茶の湯というのは、ちょうど孫ぐらい年の若い人と交流しながら伝えていき、またその若い人が年をとった時に孫くらいの人たちにいろいろ語っていくことで続いているのではないかなと思うのです。私も年上の方にいろいろと教わりながら、だんだんと茶の湯を理解してきました。今度は逆に私が若い人にいろんなことを伝える立場になったのかなと思う。益田さんと如春庵はずいぶんと年が離れていたのですよね。

戸田 そうですね。ただ益田さんは、如春庵の知識に絶大の信頼を置いていたのではないかと思います。たとえば「佐竹本三十六歌仙絵巻」を切ることになった時にも、如春庵を呼んで相談しているのです。……薄茶碗も如春庵旧蔵ですね。

潮田 斗々屋って程よくフォーマルで、野趣のあるカジュアルな要素もあって、ちょうど今日のお茶に合うと思ったのです。片身替わりのような景色に春を感じる。私なら「花の雲」と銘を付けるな。

森川 素敵ですね。

戸田 潮田さん、箱書きを。

上手の嵯峨棗には金と銀で「柳は緑、花は紅」の情景が描かれている。茶杓は織田有楽作。

上手の嵯峨棗には金と銀で「柳は緑、花は紅」の情景が描かれている。茶杓は織田有楽作。

潮田 棗は嵯峨棗で、高台寺蒔絵などと比べるとカジュアルなんだけれど、この棗は雅さもあって図柄も今の季節ですね。雅と鄙、フォーマルとカジュアルのバランスを取ることを意識しています。

戸田 茶席は非日常の世界ですが、本来暮らしの空間で、非日常を演出するには、空間や道具をどのように生かしてバランスを取るかがポイントになりますね。

潮田 実際にこの田舎家に来てみて、建物としての質のよさとか、お寺の敷地に移築されたことである種すでに俗世から切り離されているという特長があるのだけれど。それでもたとえば芦屋釜を据えるとか、有楽の茶杓を濃茶薄茶ともに使うとか、要所要所でキリッとさせないと、お客をもてなせないと感じるのです。

森川 この空間に何も置かない状態も知っていますから、道具次第でこれだけ部屋の空気が変わるのかと感動しています。

潮田 私も楽しかったです。乙御前がこの田舎家にあり、それも森川さんの末裔、曽孫の真衣さんがいらしてね。

戸田 時と場と人、道具が出会ったこの席に同座させていただき大変恐縮です。

潮田 戸田さんも森川家と深い繋がりのある方ですよ、ありがとうございました。

「追出し」の絵と花が客を見送る

寄付として使われていた囲炉裏の間。本席を終えた客がふたたび訪れると、大幅の沈南蘋画の花鳥図が壁面いっぱいに掛けられており、そのそばには古瀬戸ブチ割れの壺に吉野桜の幹と花、白い蘭の花が入っていた。薄茶席とはまた世界観の異なる中国の宮廷画が田舎家の空間に映える。

寄付として使われていた囲炉裏の間。本席を終えた客がふたたび訪れると、大幅の沈南蘋画の花鳥図が壁面いっぱいに掛けられており、そのそばには古瀬戸ブチ割れの壺に吉野桜の幹と花、白い蘭の花が入っていた。薄茶席とはまた世界観の異なる中国の宮廷画が田舎家の空間に映える。撮影協力/覚王山 日泰寺 森川如春庵顕彰会(長谷川法子) 森川家


今回の茶会で呈された地元名古屋「志ら玉」の松花堂弁当。向付、焼物、預鉢、強肴などの酒肴を贅沢に盛り込んだ弁当に、真薯の煮物椀、とろろご飯がついている。
主菓子は美濃忠の「初かつを」

干菓子は万年堂の「おちょぼ」。いずれも名古屋を代表する銘菓で、如春庵もその味を茶とともに楽しんだと、森川真衣さんはお祖母様から聞いているという。

田舎家「覚春庵」(旧森川如春庵別邸)
中京を代表する茶人・森川如春庵の旧邸。江戸時代初期頃に建てられた茅葺きの田舎家で、木曽檜などを用いた上質な遺構が保存状態もよく現在に伝わる。その歴史的な価値と意義を重視し、覚王山 日泰寺の管理ながら、森川如春庵顕彰会と連携して、今後広く市民に活用してもらうための環境を調整中である。

住所:愛知県名古屋市千種区法王町1 -1(覚王山 日泰寺内)
開門5時~16時30分、受け付け9時~14時

撮影/本誌・坂本正行 取材・文/福井洋子

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