新世代の鍼灸師に訊く 第8回(1) 鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
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更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「頭痛」
野村森太郎先生(鍼灸治療院 森空堂)
鍼灸治療院 森空堂 総院長 野村森太郎(のむら・しんたろう)先生
1985年、埼玉県生まれ。大学卒業後、制作会社勤務を経て呉竹学園東京医療専門学校に入学。関川美和子氏からカイロプラクティックの基礎を、鳥海春樹氏から頭痛治療を学ぶ。31歳で開業。鍼灸治療を身近な存在とするため、普及啓発活動にも精力的に取り組んでいる。WEBメディア「ハリトヒト。」制作部員。公益社団法人 東京都鍼灸師会副会長。
首肩の凝りを重点的に取ることで三叉神経が関与する頭痛を軽減する
鍼灸治療院 森空堂総院長の野村森太郎先生は、「町のかかりつけ鍼灸院」になることを目指し、日夜診療活動に取り組んでいます。現代医学と同じように鍼灸業界でも特定の専門領域を持つことが時流になりつつありますが、野村先生は鍼灸治療を不調に寄り添う有効なツールとしてとらえ、あらゆる健康の悩みに対応しています。
かかりつけ鍼灸院として、必要があれば患者さんを最適な医療施設に紹介する。流派が異なる鍼灸師が曜日担当制で勤めていることも特徴の一つ。
また、重視しているのはエビデンスと伝統医学的思考のバランス。診療の際は研究で明らかになっている作用機序を説明することも心がけています。「患者さんに納得して施術を受けてもらうことで鍼灸治療の効果がさらに高まり、セルフケアを含め自分の不調と向き合う姿勢が前向きに変わってくるからです」
鍼灸治療が得意とするのは片頭痛や緊張型頭痛
野村先生が診療する中でも頭痛は日常的に多い疾患の一つです。森空堂の診療全体でみると男女の割合は半々ですが、頭痛を訴えるのは女性のほうが多いといいます。頭痛は「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分かれます。一次性頭痛とは、ほかの疾患などの原因が見当たらず、頭痛を繰り返すことが問題となる慢性頭痛症のことです。代表的なものに片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがあります。二次性頭痛とは、原因となる疾患があり、脳や頭部の症状として現れる頭痛のことです。くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍、うつ病、目・鼻・あごの病気などによる頭痛がこれに当たります。
「このうち鍼灸治療がアプローチできるのは片頭痛や緊張型頭痛です。東洋医学的には、片頭痛の人はみぞおちあたりが硬く、下腹部や足の冷えが強い人が多いです。さらに頭痛に耳鳴りを伴う場合は全身の気血の巡りが悪くなっています。腹部で熱の循環が分断され、下半身が冷えて上半身がのぼせている状態です。そのため、耳鳴りのほか交感神経が優位になることで現れる自律神経の不調(肩凝り、めまい、不眠、便秘など)も起こりやすくなっています」
気血の巡りが悪い人には腹部に「箱灸」と呼ばれるお灸を施すなど、全身状態を改善して頭痛が起こりにくい体に。
さらに頭頸部の筋肉の過剰な緊張が痛みの原因となる緊張型頭痛の人ではスマートフォンやパソコンの使いすぎやそのときの姿勢の悪さから首肩のひどい凝りを引き起こしていることが多いそうです。
首肩の筋肉を緩めることで呼吸や自律神経の不調も改善
このような体の状態に対して、野村先生は全身状態を整えつつ、つらい痛みを取るために首肩、特に首を重点的に治療します。「頭痛や耳鳴りなど首から上の感覚の不具合には、三叉神経の過敏が関与していることが医学的に明らかになっています。また、首の凝りが三叉神経領域の病状や病気を悪化させることもわかっています。そこで、首の凝りを取ることで三叉神経がかかわる頭痛を軽減することを狙います」。
首すじの胸鎖乳突筋を緩める作用がある前腕の「変形の列欠※」に鍼を打つ。
治療には主に鍼を使い、首肩まわりの筋肉の中でも肩甲挙筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋を中心に施術します。「筋肉の緊張を緩めることが目的なので鍼は皮膚に10ミリ程度刺すことが多いです。また、温めることでも筋肉の緊張が緩み、かつ血液循環がよくなるため、肩まわりに台座灸を行います」。
台座灸で温めることにより肩甲骨まわりの筋肉を緩め、同時に血液循環を改善して痛みを取る。
一方、野村先生は首肩の筋肉を緩める副次的効果として呼吸や自律神経の不調の改善を挙げます。「自律神経の不調を伴う人は呼吸が浅くなっていることが多いのですが、首肩の凝りを取ることで深い呼吸に変わります。それにより副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整ってきます。そして、頭痛だけでなく、さまざまな不快な症状が軽減あるいは消失していくのです」。
このように特定の疾患(頭痛)に対処しながら、全身の健康状態をよくすることに役立つのが鍼灸治療の醍醐味です。「鍼灸治療を活用しないのは本当にもったいないと思うのです。頭痛の治療をきっかけに、日常の健康管理でも鍼灸院を気軽に利用してみてください」。
※鳥海春樹氏が三叉神経領域が起因する頭痛などへのアプローチとして独自に見出したポイント。
診療案内
東京都豊島区南大塚3-36-6 プランドールカノウ101
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診療時間/月曜~金曜10時~20時 土曜9時~20時30分 日曜10時~18時
休診日/不定休
診療費/初診料 2200円、スタンダード鍼灸コース 7150円、頭痛治療コース 7150円 ほか
https://shinkudo.com/ ※次回へ続く。
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