人間的成長──どうしたら得られますか。
人とつながっている感覚が大事。まず自分から褒める勇気を
前野先生 アドラー心理学の中心的概念に「共同体感覚」があります。「家族、地域、職場などの共同体の中で自分は人とつながっている」と思える感覚のことで、その基盤は「自己受容、他者信頼、貢献感」の3つ(下図)。理想論に感じるかもしれませんが、これらを高めようとする心がけが人間的成長を促し、コミュニティ内での人間関係を円満にすると考えられます。「うまくつきあえないのは自分が消極的だから」などと否定的に考えがちな人は、まずそういう自分も受け入れること(自己受容)から他者信頼や貢献感は育っていきます。
「共同体感覚」の3つの基盤
「共同体感覚」は、心理学者のアルフレッド・アドラー(1870~1937年)が創始し後の学者たちが発展させた「アドラー心理学」の中核とされる概念。周りの人と共同体であるという感覚を持っている人は幸せであるとし、3つの要素が基盤となる。
マドカさん 近所づきあいの上手な人を見ていると「あの人はあいさつもしないで感じ悪いわ」ではなく、自分から「こんにちは。お庭のバラがきれいですね」などと声をかけています。言葉を交わすだけで当事者間のギスギスも減りますし、地域全体の雰囲気も明るくなりますね。
前野先生 まさに共同体感覚の効果ですね。ある調査でも、日常的な近所づきあいのある人のほうが幸せで、あいさつ程度の人でも近所づきあいの特にない人より幸せであるとの結果が出ています(下のグラフ)。
近所づきあいの程度と人生満足尺度
対象者を近所づきあいの程度別に3グループに分類。1~3に対して「
1 全く当てはまらない
2 ほとんど当てはまらない
3 あまり当てはまらない
4 どちらともいえない
5 少し当てはまる
6 だいたい当てはまる
7 非常によく当てはまる」で回答した数字(人生満足尺度の点数)の平均値を3つのグループ別に比較した結果、近所づきあいのある人ほど人生満足尺度が高かった。
神奈川県高座郡寒川町が住民1500人を対象に2019年に行った幸福度アンケートの結果を抜粋、グラフ化。
マドカさんはお義母(かあ)様と良好な関係を保つために心がけていることはありますか。
マドカさん 義母(はは)には感謝していることや見習いたいところがたくさんあります。それを心に秘めずに、できるだけ口に出して伝えるようにしています。「私はお義母さんとずっといい関係でいたい」という正直な気持ちを直接、素直に表現したいので。それに褒め言葉や「ありがとう」の言葉は、発しながら聞いている自分自身も幸せな気持ちにしてくれるのです。
前野先生 そう、人は非難されると非難したくなり、褒められると「いえいえ、あなたこそ」と褒めたくなるもの。マイナスのやりとりからプラスのやりとりへの変換を自分から仕かける勇気を持つかどうか──。ここが人間関係改善、そして人間的成長の分かれ目ではないでしょうか。