“健康によいお酒を調べた”研究から考える「健康のために何を飲むか」より「一緒に何を食べるか」が大事
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定で中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』『行動栄養学とはなにか?』(ともに女子栄養大学出版部刊)など。
ワインさえ飲んでおけば健康になれるわけでもない
お酒は“百薬の長”といわれますが、健康によいお酒は本当にあるのでしょうか。この問いに真っ先に思い浮かぶのが赤ワインです。このお酒に豊富に含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、動脈硬化を予防することがよく知られています。
「ワインが健康によいらしい」ことを示しているのが図1の研究です。デンマークの30~70歳の男女およそ1万3000人を対象とした研究で、最もよく飲むお酒の種類と頻度を確認したうえで、11年間にわたって総死亡率を追跡調査しました。そしてワイン、ビール、蒸留酒(ウィスキーなど)の3種類のお酒を比較してみると、ワインをたくさん飲んでいた人ほど死亡率が低く、このような傾向はほかのお酒では認められないことがわかったのです。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
「この結果は、世界中の人を魅了しました。総死亡率にも大きな影響を及ぼす循環器疾患を予防するポリフェノールがワインの健康効果をもたらす物質として大いに注目されました。しかし、ワインさえ飲めば健康になれるというわけでもなかったのです」と佐々木先生は指摘します。
実はお酒の種類にかかわらず、飲酒習慣のある人はない人よりも心筋梗塞や脳卒中の発症率が低いことが世界中で観察されています。そのため、循環器疾患を予防するのはポリフェノールよりもアルコール(エタノール)の抗凝固作用によるところが大きいと解釈されています。
では、ワインをたくさん飲む人ほど長生きなのはなぜでしょう。その答えが図2です。これもデンマークの研究で、スーパーマーケットの300万件以上のレシート情報を分析し、ビールを買った人とワインを買った人に分け、それぞれの群がほかにどのような食品を買っていたのかを調査したものです。その結果、ワイン派で目立ったのは野菜と果物の多さで、さらに興味深いのは普通のチーズや牛乳ではなく、低脂肪タイプを選んでいたことです。
「ワイン派がいかに心筋梗塞に対し予防的な食品を好んでいるかということが手にとるようにわかります。つまり、飲むお酒の種類によって健康に差が出るわけではなく、食事全体が健康によい食べ物の組み合わせになっていることが重要なのです。健康のためにどのお酒を飲むかではなく、お酒と一緒に何を食べるかということに気を配りましょう」
●研究の結果と食事の留意点
研究の結果●ワインをよく飲む人は 飲まない人よりも 総死亡率が低かった(図1)。
●ワインを買った人は野菜・果物、低脂肪チーズ、低脂肪乳を好み、心筋梗塞を予防する食品を多く選んでいた(図2)。
食事の留意点●飲むお酒の種類によって健康に差が出るわけではない。ゆえに、健康のためにはお酒の種類ではなく、お酒と一緒に何を食べるかということに気を配る。
参考文献/『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』佐々木 敏 著(女子栄養大学出版部刊)P.193 ~203 、図1はP.195 、図2はP.199を参考に作成
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