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夏の贈り物に。「金魚」が浮かぶ、涼やかなマスカットの和風ゼリー

2024.07.12

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エッセイ連載「和菓子とわたし」

「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2024年8月号に掲載された第37回、坂木 司さんによるエッセイをお楽しみください。

vol. 37 当たりの氷

文・坂木 司

近所に氷屋がある。普段は業者専門の店だが、夏の間だけはご近所サービスのように「かき氷」の暖簾がはためく。サービスだから値段も安いし、本当にただのざっかけないかき氷だ。今どきの「ふわふわ」ではないため、食べると高確率で頭が「きーん」となる。でも暑くなると、なんとなく買ってしまう。シロップは基本のイチゴメロンレモンに水(スイ)。カルピスと杏と練乳は贅沢なオプションだ。注文を告げるとプラカップに氷が詰められ、半球形の蓋をぱこんと嵌められて手渡される。飲食用のスペースがないため、テイクアウト一択。色々潔い。


ただある時、気がついた。氷が妙においしい日がある。そこで観察してみると、人が違っていた。普通の味の日はおばさんで、おいしい日はおじいさんが接客していたのだ。おばさんは、かいた氷をぎゅうぎゅうに詰めるのに対し、おじいさんは氷をただカップでふわりと受けている。なるほど味の違いは空気の含有量かと思い、それからはおじいさんがいる日を選ぼうとした。が、それは不可能だった。業者専門の店ゆえ、そもそも店頭に人が出ていないのだ。すいませんと声をかけ、「はーい」と出てきてくれるのが誰かによって氷の味が確定する。ちなみにそこで「あ、いいです」と断るハートの強さは持ち合わせていない。

おじいさんは当たりで、おばさんは外れ。そう考えると、ある種の賭けのような気分でそれはそれで楽しかった。しかしある日、私は自分の前に並んでいた親子連れに対して話しかけるおばさんを見てしまった。

「ほら、たくさん詰めてあげるからね。これならすぐに溶けないよ。公園までもつんじゃないかな」

愛だった。私は己を恥じた。ぎゅっと詰まったかき氷は愛だし、ふわりとした氷を大切にするのも愛。

うちの近所には、当たりしか出さない氷屋がある。これはちょっと自慢だ。

坂木 司
1969年、東京都生まれ。作家。2002年、『青空の卵』でデビュー。同書から始まった「ひきこもり探偵」シリーズが人気を博する。『和菓子のアン』『アンと青春』『アンと愛情』などの「和菓子のアン」シリーズのほか、『先生と僕』『ホテルジューシー』『女子的生活』など著書多数。
宗家 源 吉兆庵
TEL 0120-277-327
https://www.kitchoan.co.jp/
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