クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第339回 モーツァルト『アヴェ・ヴェルム・コルプス』
イラスト/なめきみほ
モーツァルトが死の半年前に遺した珠玉の名曲
今日8月4日は、モーツァルト(1756~91)の結婚記念日です。(1782年)
当時のモーツァルトは、ザルツブルク大司教と衝突して解雇され、ウィーンでフリーの音楽家として活動する覚悟を決めた頃でした。
父レオポルドの反対を押し切って結婚した相手は、かつてモーツァルトが思いを寄せたアロイジア・ヴェーバーの妹で、オペラ『魔弾の射手』の作曲者として名高いヴェーバーの従姉妹コンスタンツェ。モーツァルト26歳、コンスタンツェ19歳の若き2人の波乱万丈な結婚生活は、映画『アマデウス』にも詳細に描かれています。
この2人にまつわる逸話の中でも特に印象的な話が、モーツァルトがこの世を去る半年前に作曲したカトリックの聖体賛美歌『アヴェ・ヴェルム・コルプス』の誕生秘話でしょう。
体調を崩して療養中の妻コンスタンツェの面倒をみてくれた合唱指揮者、アントン・シュトルへの感謝を込めて作曲された『アヴェ・ヴェルム・コルプス』の美しさはまさに破格。僅か46小節、3分ほどのこの小品からは、最晩年のモーツァルトの優しさと、妻への想いが溢れ出るようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。