クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第340回 ベルク オペラ『ヴォツェック』
イラスト/なめきみほ
自らの意思を貫き通した偉大なマエストロ
今日8月5日は、オーストリアの名指揮者、エーリヒ・クライバー(1890~1956)の誕生日です。
指揮者を志したきっかけは、学生時代から頻繁に通っていたプラハの歌劇場でグスタフ・マーラーの指揮に感銘を受けたからだと伝えられます。
このエーリヒが指揮するベートーヴェンの『運命』に感銘を受けて指揮者を志したのが、大指揮者ゲオルグ・ショルティであり、父の背中を見ながら育った天才指揮者、カルロス・クライバーであることに、指揮者独特の縁(えにし)が感じられます。
エーリヒのレパートリーは、前述のベートーヴェンやモーツァルトのオペラはもちろん、同時代の作曲家の作品を積極的に取り上げたことが特筆されます。
中でも、1924年12月14日にベルリン国立歌劇場で初演を務めたベルクのオペラ『ヴォツェック』は、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を上回る、120回もの舞台稽古を必要とした難曲でした。
初演においても激しい論争を巻き起こしたこの作品の成功は、「いかなる反論もはねつけて自分の意志を押し通した」とされるエーリヒの強い性格の賜物だったと言えそうです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。