クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第357回 ドビュッシー『神聖な舞曲と世俗的な舞曲』
イラスト/なめきみほ
楽器メーカーの代理戦争から生まれた名曲とは
今日8月22日は、フランス印象主義の作曲家、クロード・ドビュッシー(1862~1918)の誕生日です。
残された音楽の美しさとは裏腹に、その人生はスキャンダルにまみれたものでした。確執のあった同時代の作曲家ラヴェル(1875~1937)との微妙な関係を象徴する作品が、ドビュッシーの『世俗的な舞曲』とラヴェルの『序奏とアレグロ』です。
ハープが活躍するこの2曲は、フランスのピアノメーカー、プレイエルとエラールが競い合うようにして発表した新型ハープのための作品でした。
1904年に作曲されたドビュッシーの『世俗的な舞曲』は、プレイエルが開発したクロマティックハープのコンクール用に依頼された作品で、同時に書かれた『神聖な舞曲』とともに同年11月6日、パリで初演されています。
一方、その1年後の1905年に作曲されたラヴェルの『序奏とアレグロ』は、エラールが開発したダブルアクションハープ普及のために依頼された作品です。まさに代理戦争。結果的に2人の作品はハープのための名曲として共存しています。名曲の誕生は楽器の発展と共にあったのですね。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。