クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第362回 ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』
イラスト/なめきみほ
宮沢賢治が愛したクラシックとは
今日8月27日は、詩人で童話作家、宮沢賢治(1896~1933)の誕生日です。
今では、日本を代表する詩人にして童話作家として知られる宮沢賢治ですが、生前は全く無名の存在でした。受け取った原稿料は、なんと雑誌『愛国婦人』に掲載した『雪渡り』の5円のみ。これはまさに、生前に絵が1枚しか売れなかったと伝えられるヴィンセント・ヴァン・ゴッホにも通じる儚さです。
その賢治は音楽に深い関心を持ち、暇を見つけてはレコードを聴いていたと伝えられます。名作『銀河鉄道の夜』の中に、銀河鉄道の旅をするジョバンニとカンパネルラの車室に同乗した女の子が、どこかから流れてくる音楽を聞きつけて、「新世界交響曲だわ」とつぶやく場面があるのは、まさにその影響でしょう。
他にも、心象スケッチ『春と修羅』執筆の起爆剤となったベートーヴェンの『運命』や、『田園』などなど、クラシック音楽への思いは作品の随所に見て取れます。中でも、病の床で最期まで愛聴していたとされるドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』は、賢治の“クラシック愛”を象徴する作品といえそうです。
※この記事は、下記のサイト等を参考にしました。
https://www7b.biglobe.ne.jp/~yukiko99/books2-12.html
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。