サイレントキラーの病に備える 第9回(1)この頃筋肉が減ってきた、力が出にくくなったなどと感じることはありませんか。加齢とともに筋肉の量や筋力が落ちるサルコペニアは多くの病気に関連するサイレントキラーです。国立長寿医療研究センター理事長の荒井秀典先生にサルコペニアの特徴や予防法について教えていただきます。
前回の記事はこちら>>
「サルコペニア」“気づいたときには手遅れ”にならないように
[お話を伺った方]
国立長寿医療研究センター 理事長
荒井秀典(あらい・ひでのり)先生1984年京都大学医学部卒業、91年同大学大学院博士課程修了。同大学医学部附属病院老年内科、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校等を経て、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授、国立長寿医療研究センター病院長などを歴任。2019年から現職。日本サルコペニア・フレイル学会代表理事。
糖尿病や骨粗しょう症など多くの病気と関連する
サルコペニアとは、加齢に伴って骨格筋(骨格に沿ってついている筋肉で、姿勢や運動を支える)の量が減り、筋力が落ちて、身体機能も下がった状態をさします。「筋肉減少症」とも呼ばれます。
骨格筋の量は20代から30代でピークを迎えます。荒井先生によると、20歳から70歳までに骨格筋の約4割が失われるそうです。「高齢になるほど骨格筋量の減少のスピードは速くなる」とのことで、30歳から70歳の間は10年間で6パーセントずつ、60歳以降には年間1・4〜2・5パーセント骨格筋が減るという報告があります。
サルコペニアは虚弱(フレイル)を進める要因でもあります。フレイルとは加齢による心身の衰えのことで、進行すると介護が必要になる状態です。
また、ほかにも多くの病気や症状と関連します。例えば、サルコペニアと骨粗しょう症はいずれも運動不足や低栄養が主な原因で合併しやすく、転倒による骨折につながります。骨折すると動きづらくなって、サルコペニアも骨粗しょう症もさらに進みます。
糖尿病とサルコペニアも相関します。糖尿病がサルコペニアを悪化させる一方、糖を代謝する筋肉の減少によって糖尿病のリスクが上がります。
身体の活動量を減らし、低栄養を招く認知症もサルコペニアのリスクの一つで、逆にサルコペニアにより活動量が減ることで、認知症の危険度が上がります。
腎臓や心臓の病気、慢性閉塞性肺疾患(COPD)も関連します。
さらに、骨盤底筋群が衰えると排尿障害、嚙む筋肉や舌を動かす筋肉、喉の筋肉が衰えると嚥下障害が起こります。骨格筋の減少は体内の水分の減少につながり、脱水や熱中症にもなりやすくなります。脱水は筋肉痛やけいれんを起こし、身体の活動量を減らすため、サルコペニアの引き金になります。
サルコペニアと関連する病気・症状
●骨粗しょう症
●糖尿病
●認知症
●腎臓病
●心臓病
●慢性閉塞性肺疾患(COPD)
●転倒・骨折
●排尿障害
●嚥下障害
●脱水・熱中症 など
体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割る体格指数(BMI)が18・5未満の低体重(やせ)もリスクです。特にダイエットを繰り返している人は筋肉が減りやすく、逆に肥満でも筋肉に脂肪が入って筋力が落ちるため、サルコペニアのリスクがあります。
次回(明日公開予定)、注意が必要な自覚症状について詳しくお伝えします。
(次回へ続く)