サイレントキラーの病に備える 第9回(2)この頃筋肉が減ってきた、力が出にくくなったなどと感じることはありませんか。加齢とともに筋肉の量や筋力が落ちるサルコペニアは多くの病気に関連するサイレントキラーです。国立長寿医療研究センター理事長の荒井秀典先生にサルコペニアの特徴や予防法について教えていただきます。
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「サルコペニア」“気づいたときには手遅れ"にならないように
[お話を伺った方]
国立長寿医療研究センター 理事長
荒井秀典(あらい・ひでのり)先生1984年京都大学医学部卒業、91年同大学大学院博士課程修了。同大学医学部附属病院老年内科、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校等を経て、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授、国立長寿医療研究センター病院長などを歴任。2019年から現職。日本サルコペニア・フレイル学会代表理事。
加齢とともに進む筋肉量や筋力の低下は心身の衰えや多くの病気を引き起こす
サルコペニアの診断は、症例の抽出(スクリーニング)と評価の2段階に分けて行われます(
2ページ目で紹介)。
「現在、診断基準を世界的に統一する方向で検討が進んでおり、来年には新しい診断基準が公表されると思います。将来的には年齢を考慮した診断基準にすることを想定しています」。
サルコペニアであらわれやすい自覚症状
※自覚症状だけではサルコペニアであると判断できないが、下記のような状態に気づいたら要注意。
●体を動かすと疲れやすい
●重い物を持つのがおっくう
●階段を上るのを避けてしまう
●栄養ドリンクなどの瓶のふたが開けにくい
●ふきんやタオル、雑巾を絞る力が落ちてきた
●同年代の人と比べると歩くのが遅い
●信号が変わるまでに横断歩道を渡りきるのがぎりぎりになる
●転びやすくなった
●飲食物の飲み込みがスムーズでなくなってきた、むせやすい
●太ももやふくらはぎが細くなり、たるんできた
自分でできる「指輪っかテスト」でチェックしてみましょう。ふくらはぎの最も太いところに両手の親指と人差し指で輪っかを作って当てたとき、すき間ができる、あるいはぴったりだとサルコペニアの可能性があります。
また、椅子から5回繰り返して立ち上がる際にかかる秒数が12秒未満であるかを測定します。握力も目安になります。「握力計を常備する医療機関もあるので、聞いてみてください」。
筋トレとたんぱく質・ビタミンDの摂取が予防の鍵
サルコペニアの予防のポイントは、適切な運動と十分な栄養の摂取です。
運動では「1日8000歩以上を目安に歩き、さらに筋力トレーニングを行ってください」。ペットボトルに水を入れてダンベル代わりに筋トレしたり、テレビを見ながらハンドグリップで握力を鍛えたりと普段から筋トレの時間を取るようにしましょう。国立長寿医療研究センターのホームページに掲載されている「
体力向上パック」が参考になります。
食事では、適量のエネルギーとともに筋肉の材料となるたんぱく質を欠かさないことです。たんぱく質の量が少ないと骨格筋量が減ることがわかっています。なお、たんぱく質を夕食だけで多く摂取するより毎食均等に摂るほうがたんぱく質からの筋肉の合成量が多くなります。また、運動後1時間以内に摂ると合成の効率が上がります。
さらに、ビタミンDが不足すると、将来的にサルコペニアになりやすいことが国立長寿医療研究センターなどの研究から明らかになっています。また、ビタミンDを十分に摂ると糖尿病のリスクも下がります。魚類や卵、きのこなどを積極的に食べましょう。ビタミンDは日光に当たると皮膚で合成されるので、1日10~15分を目安に日光に当たるのがおすすめです。
薬がサルコペニアを招く場合もあります。特に筋肉の萎縮、ふらつきや転倒、食欲低下といった副作用がある薬は要注意です。
「例えば一部の睡眠薬には食欲低下作用があり、長期間常用すると認知機能も下げて、サルコペニアやフレイル、転倒などのリスクも高めるため、できるだけ避けるほうがよいと考えます」。特に多種類の薬を飲んでいる人は減らせる薬がないか医師や薬剤師に相談しましょう。