【連載】塩沼亮潤「くらしの塩かげん」 1300年間にわずか2人しか成し遂げた人がいない荒行「大峯千日回峰行(おおみねせんにちかいほうぎょう)」の満行者、塩沼亮潤(しおぬま・りょうじゅん)大阿闍梨(だいあじゃり)。最難関の命がけの荒行を経験し、修験道を極めた塩沼さんがいま切に感じるのは「日々の“あたりまえ”のことこそ難しい」ということ。私たちのあたりまえの暮らしにそっと光を灯す小さなヒントを、塩沼さんのことばでお届けします。
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老いる楽しみ。
50歳を過ぎたあたりから、体力がなくなったなぁ、という実感があります。若いつもりでいましたが、肉体というものは変化するものですね。
最近では、もともと健康的なお寺の暮らしの中に、少し工夫を取り入れて日々を生活しています。
まずは一日4時間だった睡眠時間を7時間に増やし、塩分や糖分を控えめにした料理を食べるようになりました。体というのは正直なもので、睡眠を増やすと心のゆとりが生まれました。そうなると体調がよくなり、思考もすっきりしてきます。そういった好循環に身を置くことで、老いと向き合っています。
寝る前に呼吸を整えて、座禅やヨガをするのもおすすめです。運動不足であれば一日20分でいいので毎日歩くなど、できるところから始めてみましょう。
一方で、年を重ねていくことも案外いいものだなぁ、とも感じています。体力は衰えたかもしれませんが、若い頃にあったカドのようなものが自然となくなり、人間として丸くなっていくのが嬉しいのです。
また、病気を経験することで、健康のありがたさを知りました。病気になった人や立場の弱い人のことを慮る心も生まれてきました。お坊さんでなくても、そうやって誰しも老いていきながら、悟っていくのかもしれないですね。
若い頃とは違うペースでいいのです。年老いて体が不自由になっても、いつも元気に笑って生きている。そんな人生をぼちぼちと歩いていきましょうか。
※Web連載「くらしの塩かげん」は今回が最終回です。ここでご紹介できなかったエピソードを含む全72のショートエッセイを綴った書籍『くらしの塩かげん』もぜひご覧ください。
塩沼亮潤(しおぬま・りょうじゅん)
1968(昭和43)年、宮城県⽣まれ。1987年奈良県吉野の金峯山寺で出家得度。1999年「⼤峯千⽇回峰⾏(おおみねせんにちかいほうぎょう)」の満⾏をはじめ、2000年には9⽇間の断⾷・断⽔・不眠・不臥の中、御真⾔を20万遍唱える「四無⾏(しむぎょう)」を、2006年には、100日間の五穀断ち・塩断ちの前⾏の後、8000枚の護摩を焚く「⼋千枚⼤護摩供(はっせんまいだいごまく)」を満⾏。同年故郷の仙台市秋保に福聚山 慈眼寺(ふくじゅさん じげんじ)を建立。「⼼の信仰」を国内外に伝えている。公式Youtube>>
福聚山 慈眼寺(ふくじゅさん じげんじ)宮城県仙台市太白区秋保町馬場字滝原89-2 公式サイト>>
◆⼤峯千⽇回峰⾏(おおみねせんにちかいほうぎょう)とは
奈良県吉野山にある金峯山寺(きんぷせんじ)蔵王堂から、24km先の山上ヶ岳頂上にある大峯山寺(おおみねさんじ)本堂までの往復48km、標高差1355mの山道を毎日16時間かけて1000日間歩き続ける修行。毎年5月3日から9月3日までの4ヵ月間が行の期間と定められているため、満行には9年の歳月がかかる。毎日おにぎり2個と500mlの水、約4時間半の睡眠で臨む、 肉体的にも精神的にも極限まで追い込まれた状況下での命がけの荒行。塩沼さんは、1991年5月3日から4万8000kmを歩き、1999年9月3日に成満している。
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