没後120年に寄せて エミール・ガレの器と暮らす
四季の情緒を多彩な技法を駆使して作品の中に巧みに取り込み、ガラス工芸を芸術の域まで高めたフランスの工芸作家、エミール・ガレ。生活空間の中に置いてこそ輝きを放つ作品の魅力を、没後120年を機に見つめ直します。
和の空間にもなじむ繊細な絵付け
【笹に雀文花器(1897~1900年 径23×高さ27センチ)】
雪持ちの笹の間を飛び交う雀を表現した作品。左にイエス・キリストの生誕を表す星が描かれている。「エナメル彩」の濃淡や筆致、余白を生かした構図には、日本美術の影響が見て取れる。
19世紀末から20世紀初頭にヨーロッパで広がった芸術様式「アール・ヌーヴォー」を代表するガラス工芸作家、エミール・ガレ。
「新興富裕層が増え、クリスタル・ガラスがもてはやされた19世紀後半、裕福な家庭に生まれ育ったガレはガラス工芸をアートの領域に昇華させた類いまれなガラス・アーティストです」と語るのは、アール・ヌーヴォー・コレクションで知られる北澤美術館の主席学芸員で美術工芸史家の池田まゆみさん。
【蝶と花文花器(1880年代 23×19×高さ12センチ)】
草花の間を舞う蝶を「エナメル彩」で伸びやかに絵付けした口縁が波状の花器。涼しげな透明のガラスの上に、昆虫や植物の生きた姿を写実的に表現している。ガレ初期の作品。 初期の作品は、エナメル彩による繊細な絵付け、中期になると色ガラスを重ねて成形する被(き)せガラスの手法で、つぶさに観察した自然を描き出しています。
その頃、作品に新鮮さを求めるガレに大きな影響を及ぼしたのが、当時のヨーロッパでブームとなっていた「ジャポニスム」でした。
【モミの木文花器(1897~1900年 径20.8×高さ16.4センチ)】
クリスマスのプレゼントアイテムとして作られた作品。薄緑色を帯びたガラスに白を重ね合わせた淡い彩色の「被せガラス」で冬の情景を、「エナメル彩」によりもみの木の葉や実を表情豊かに描写している。
命あるものを題材とした日本美術の斬新な構図や表現に深く感銘を受けたガレは、植物園のように広大な庭で、日本由来の品種を含む2500種を超える草木を育て、つぶさに観察し、その成長や四季のうつろいを描いています。
「日本画を思わせる絵付けや、詩情溢れる絵柄は、私たち日本人が持つ美意識に通ずるものがあり、かつ現代の生活空間や和室にフィットするアートとしても楽しめます」(池田さん)。
「笹に雀文花器」に描かれた星。文字はラテン語で「善意の人々に」の意。
「モミの木文花器」や「笹に雀文花器」は、絵柄の配置や淡い色調が、まさに日本画のよう。自然が見せる一瞬の表情を捉えた作品からは、四季折々の情緒を大切にするガレの温かな眼差しを感じ取ることができます。