サイレントキラーの病に備える 第10回(2)前触れもないまま起こる脳卒中や心筋梗塞、大動脈解離などの背後には高血圧があることがほとんどです。サイレントキラーの代表格といえる高血圧の予防や診断について、佐賀大学医学部長で、日本高血圧学会理事長を務める野出孝一先生に伺います。
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“気づいたときには手遅れ”にならないように「高血圧」
[お話を伺った方]
佐賀大学医学部長 循環器内科・内科主任教授
野出孝一(ので・こういち)先生1988年佐賀医科大学卒業、97年大阪大学大学院博士課程修了。同年米国ハーバード大学医学部に留学。2002年に佐賀大学医学部内科学講座循環器内科主任教授に就任、16年から同大学医学部内科学講座主任教授を兼任。23年から同大学医学部長・大学院医学系研究科長。22年から日本高血圧学会理事長を務める。
脳出血・脳梗塞、狭心症・心筋梗塞、動脈瘤破裂など 深刻な病気の背景には高血圧が潜んでいる
高血圧の大きな要因は加齢です。喫煙、飲酒、肥満、運動不足、睡眠不足、塩分の摂りすぎ、ストレスなども原因です。体質の影響もあり、「両親のどちらかが高血圧であれば、自分も高血圧になりやすいと考えてください」。
女性は閉経後に動脈硬化や高血圧が進行しやすくなります。血管をしなやかにし、血圧を下げる女性ホルモンのエストロゲンが急激に減るためです。
また、睡眠時無呼吸症候群、腎臓病、副腎のホルモンの異常によるクッシング症候群や原発性アルドステロン症といったほかの病気が原因で高血圧になることもあります(二次性高血圧)。「高血圧の人の数パーセントは二次性高血圧ですが、元の病気が診断されていないケースも意外と多いのです」。薬の副作用で高血圧になる人もいます。
血圧は診察室や検診などでの測定値と家庭など医療機関外での測定値が異なることがあります。診察室や検診で高くなる場合を白衣高血圧、家庭で高くなる場合は仮面高血圧と呼びます。
このように血圧には測定場所が関係するため、家で習慣的に測定することはとても重要です。「まずは朝の起床時に測定します。正常血圧であれば、必ずしも毎日ではなく、1週間に1回でもいいのです」(
下コラム参照)。
野出先生によると、大学生や高校生にも高血圧がみられるとのこと。高血圧には遺伝や生活習慣がかかわるため、世代に関係なく、家庭で定期的に血圧を測るのはおすすめです。頭痛などの体調の変化、ストレスを感じたときなどには血圧や脈拍を測定すると受診すべきかを判断するヒントにもなります。
自宅で血圧を測定しよう
●血圧計
上腕にカフ(腕帯)を巻いて測定するタイプは手首や指先で測るタイプよりも正確性が高いのでおすすめ。スマートフォンのアプリと連動して自動入力する機種もある。
●測定のタイミング
朝起きたときに測定するのが最も重要。起床から30分以内を目安にする。「血圧は夜中3時頃が最も低く、その時間の血圧を反映しやすいのが起床時です。本来、最も低いはずの血圧が異常に高くなっていると動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中などが起こりやすいことが知られています」。もう1回追加で測るなら、夕方か就寝前に。空腹時がよく、飲酒後は避ける。厳密にいつも同じ時間に測らなくてはいけないと思わず、血圧測定を習慣づけることを重視すればよい。
●測定方法
測定部の位置が心臓とほぼ同じ高さになるようにする。利き手側でも反対側でもどちらでもかまわない。
●診察時に記録を医師に見せる
測定日時とともに収縮期血圧と拡張期血圧の数字を記録しておき、内科などで診察を受けたときに医師に見てもらうと高血圧かどうか、またどんなタイプの高血圧かを判断してもらうのに役立つ。