【100歳記念企画】人間国宝・志村ふくみ 「いのちの色」よ、永遠に(前編) 重要無形文化財「紬織」保持者の志村ふくみさんが、この秋、百寿を迎えます。植物のいのちをいただき糸に染め、紬織を芸術の域にまで高めた偉大なるパイオニアの功績を辿り、決して消えることのない尊い情熱の物語をお届けします。
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2024年7月、100歳の誕生日を目前にしたふくみさんのポートレイト。美しい色糸を手に眺めたり、文章を紡いだり。美を求める情熱は、笑顔とともに今も衰えることはありません。
2016年制作の「母衣曼荼羅(ぼろまんだら)」。縦387センチ、横262センチの大きなタペストリーは、2024年11月21日より開催される大倉集古館での展覧会でも展示され、エントランスで訪れる人を出迎えてくれます。ふくみさんが初めて制作したきもの「秋霞」を彷彿させる藍の階調が見事です。
植物のいのちをいただき、美しい色に
藍や蘇芳(すおう)、苅安(かりやす)、桜……。草木を慈しみ、そのいのちを鉱物で留め、蚕の糸に染める。地球上のあらゆるいのちの結晶で、美しい色彩の世界を生み出す。
上写真の植物は上から、梔子(くちなし)、ヨモギ、臭木(くさぎ)、紅花、そして紫根(しこん) 。
“こういう色を染めたい” という考えは順序が逆であると志村ふくみさんはいいます。「草木がすでに抱いている色のいのちを、私たちはいただいているのです」。
藍を建てる。つなぎ糸を使う。その尊い心
藍染師の片野元彦さんに師事した志村ふくみさんは「藍を建てることは子どもを一人持つことと同じ」とその心構えを説かれたといいます。
工房では藍は最も精神性の高い染料として大切にされ、刻々と状態が変わる藍を毎日かき混ぜ、温度を管理し、色や香りを見守ります。
藍甕(あいがめ)から糸を引き上げ空気に触れた一瞬だけ、緑が姿を現します。緑はどの植物からも直接は出てこない色。「緑は生あるものの死せる像である」というシュタイナーの言葉に、ふくみさんは感銘を受けます。
月の満ち欠けにより変化する藍。工房には月読尊(つくよみのみこと)がまつられています。
すくもの発酵が進むと、藍の華と呼ばれる気泡が生まれます。
蚕の玉繭を使い、農家の主婦が家族のために労働着として織っていた紬織では、ごく短い余り糸も大切につないで使われてきました。さまざまな色糸が手作業でつながれています。ふくみさんの作品には、このつなぎ糸が効果的にあしらわれています。
(次回へ続く。
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