【100歳記念企画】人間国宝・志村ふくみ 「いのちの色」よ、永遠に(後編) 重要無形文化財「紬織」保持者の志村ふくみさんが、この秋、百寿を迎えます。植物のいのちをいただき糸に染め、紬織を芸術の域にまで高めた偉大なるパイオニアの功績を辿り、決して消えることのない尊い情熱の物語をお届けします。
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紬織を芸術の域に昇華させて
紬織はかつて「ボロ織」「屑織」などとも呼ばれ、庶民のきものでしたが、志村ふくみさんは植物染料を駆使した美しい色彩にこだわり、類いまれなる創造性で見事な染織芸術へと昇華させました。ここでは、ふくみさんの代表的な作品を通して、その軌跡を辿ります。
「方形文綴織単帯(ほうけいもんつづれおりひとえおび)」1957年、第4回日本伝統工芸展に初出品したデビュー作。黒田辰秋からエジプトのコプト織の手法をすすめられ、母が残した糸で織り上げたもの。審査委員の芹沢銈介(けいすけ)が「色がいいので色で入れよう」と評して入選したそう。ふくみさんはこれを機に草木染めと平織で創作していくことを決意。歩むべき道が定まった作品といえます。(個人蔵)
「秋霞」1958年、第5回日本伝統工芸展では、初めてきもので奨励賞を受賞します。藍の濃淡につなぎ糸を織り込み、琵琶湖の情景を表現。当時、紬織が日本伝統工芸展で受賞したこと自体が画期的であり、ここから毎年連続受賞を果たしたふくみさんは、1962年には特待出品者の第一号になります。(個人蔵)
「聖堂(みどう)」1992年の作品。この作品は翌年、ふくみさんの故郷にある滋賀県立美術館に、志村ふくみ作品として初めて収蔵されることになります。旅先のイタリアで立ち寄った教会で、数えきれないほどの灯火が揺らめく様を目の当たりにし、藍と矢絣でその感動を生き生きと表現しています。(滋賀県立美術館蔵)
「切継(きりつぎ)──熨斗目拾遺(のしめしゅうい)」1994年、紬のはぎれをつなぎ合わせてきものに仕立てた作品。108枚もの多種多様な裂をふくみさん自身が幾何学模様に縫い合わせており、その色彩感覚、独創性が冴え渡るデザイン。余り糸の一本をも大切にしてきた紬織の精神は忘れずに、伝統的な技法にとらわれずに新たな挑戦をした一枚といえます。(滋賀県立美術館蔵)
「夕顔」2003年、『源氏物語』第4帖「夕顔」の女性像をイメージして作られた作品。紫根の紫を地色に、臭木の青で染めた糸を織り入れ、裾と右肩には石畳文様を絣(かすり)で表現しています。ふくみさんは、2000年代に『源氏物語』を題材にした創作活動に多数取り組み、見る者の想像力を搔き立てる味わい深い作品を次々と生み出しています。(滋賀県立美術館蔵)