「いのちの色」をさらに羽ばたかせて
文化勲章を受章した2015年秋、工房近くの清凉寺にて家族写真を撮影。後列右が昌司さん、左が宏さん。ふくみさんの志は次代にしっかりと根を張ります。
ふくみさんの傍らには、いつも娘の洋子さんがいました。そこに孫2人も加わって、「いのちの色」は受け継がれています。
ふくみさんの近年の活動で特筆すべきは、2018年の能舞台『沖宮(おきのみや)』です。『苦海浄土──わが水俣病』で患者の惨禍に迫った作家として高名な石牟礼道子さんが書き上げた新作能舞台の衣裳監修を手掛けたのです。
2018年10月に上演された石牟礼さん原作の新作能『沖宮』。衣裳監修をふくみさんが行い、都機工房が制作。(撮影/上杉 遥)
『沖宮』は天草で戦に散った天草四郎と生き残った少女あやを軸に、人の死と再生を描いた物語。ふくみさんが60代の頃に出会って以来、長年交流を深めていた石牟礼さんの文章は、ふくみさんの創作活動の大きな糧となっていました。
「石牟礼さんのことなど」と記した手帳と愛用の万年筆。ふくみさんは石牟礼さんの文学や随筆から感銘を受けた一節を手帳に記していました。(撮影/上杉 遥)
二人の親交から公演の結実に至ったのは、娘の洋子さんと孫の昌司さんのサポートがあってこそ。石牟礼さんは残念ながら舞台を観ることが叶わず瞑目しましたが、ふくみさんが心を奮い立たせて制作した見事な能衣裳は、秋の展覧会で観ることができます。
また、洋子さんと昌司さんによって2013年に開校された芸術学校アルスシムラは、2024年秋、ふくみさん生誕100年を記念した特別講座を開設。
シムラオリジナルの織り機を自宅で組み立て、オンライン講座で帯を織り上げるというもので、ふくみさんの染織世界を自宅で体感できる画期的な取り組みです。
アルスシムラオリジナルの機「hatari」。(撮影/田口葉子)
工房の舵とりを一手に担う洋子さん。2024年10月には書籍『鏡 志村洋子 染と織の心象』(求龍堂)を刊行予定。
昌司さんが次世代の作り手と2016年に立ち上げた染織ブランド、アトリエシムラでは、ふくみさんの芸術精神を継承し、紬織作品の制作販売やワークショップも行っています。
草木染めを受け継いでいるのは、昌司さんの弟の宏さん。紅花や紫根、藍など染料となる植物を栽培し、独自の染織活動で「いのちの色」を次代に伝えています。
植物を育て、染織活動をしている孫の宏さん。「いのちの色」を受け継ぐ貴重な役割を果たしています。
宏さんが育てた国産の紫根で染められた、鮮やかな紫の糸。
草木染めや機織りという手仕事の尊さ、そしてふくみさんの哲学は、家族だけでなく多くの人々が学び、受け継ぐことで、染織が織り成す美しい階調のように、後世に広がりを見せていくことでしょう。
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