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特別対談 塩沼亮潤+羽生結弦「生きる」意味

2024.10.03

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極限の状況だからこそ発揮される集中力

塩沼 ところで、2023年2月にスケーター史上初めて東京ドームで行われた単独公演『ICE STORY 2023 “GIFT”』を拝見し、感動しました。極限の状況下であのパフォーマンスができる原動力は、どこにあるんですか?

羽生 皆さんに期待していただけるから。やっぱり、それしかないです。僕は今、自分1人だけで2時間強滑り続けるというアイスショーを行っているわけですが、極限まで追い込まれて体力もメンタルも削られているからこそ、パフォーマンスに優しさが溢れてきたり、逆にちょっと破壊的な空気をも生み出せると感じることがあって。「なんでこんなに頑張っているんだっけ? 何のためにやっているんだっけ?」という思考になりかけるときもあるのですが、演技を届けたときの皆さんの反応やエネルギーがやっぱり楽しくて、幸せで。その快感を味わいたくてやっている、そこだけです。


塩沼 このパワーはなんだろうと思いました。

羽生 それくらいやらないと、皆さんの心を動かすようなパフォーマンスはなかなか出せないんですよね。そもそも、自信がそんなにないんです……。皆さん、僕のことを「メンタル強い」とおっしゃるんですけど、強くないからこそ練習して、すごく準備しないと耐えられない。あと、つい最近も「なんで僕はナルシストと言われてしまうんだろう」と考えてしまって。スケーターとして鏡を見る機会は多いですが、好きで見ているわけでもなく。撮影で写真確認をと言われても、別に自分の顔を確認しなくてもいい、と思うくらいなんですが。

塩沼 まずい。私のほうがナルシストかもしれない……。さっき撮影していただいた写真も「写真見せて! いいね、いいね」って(笑)。

羽生 あはは(笑)。僕は、もともと自信がないので中途半端なことができないんですね。例えばアップしているときには、自分の世界に浸るくらいまで集中していることが多い。エアで熱唱している姿を見て、恥ずかしがらないところが「自分に酔っている」と思われがちなのですが、それは決して酔いしれているわけではなくて。最大限のパフォーマンスをするためにはそこまでやらないと辿り着けないからなのですが。普通の人よりも振り切れてしまうことで“ナルシスト”認定されてしまうのかな……。

塩沼 一般的にはごく限られた情報量しか伝わらないので、実際と全然違うイメージに受け取られてしまう場合もありますよね。

羽生 いや〜、ナルシスト疑惑に関しては声を大にして反論したいんです(苦笑)。

塩沼 では、ここではっきりお伝えしましょう。私も、1300年に2人しか成功していない千日回峰行をやり遂げるなんて、どんなに特別な人なんだろうと思われがちなのですが、「お会いすると普通の方なんですね」と言われることも多くて。それがまた嬉しいんです。

撮影/鍋島徳恭 ヘア&メイク/小和田千穂〈MOC〉(羽生さん) 構成・取材・文/小松庸子

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