サイレントキラーの病に備える 第11回(1)子宮体がんになる女性の数が右肩上がりに増えています。気づきにくい子宮体がんの症状や診断について、日本婦人科腫瘍学会で『子宮体がん治療ガイドライン 2023年版』改訂委員会・作成委員会委員長を務めた、杏林大学医学部産科婦人科教授の小林陽一先生に伺います。
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「子宮体がん」“気づいたときには手遅れ”にならないように
[お話を伺った方]
杏林大学医学部産科婦人科教授
小林陽一(こばやし・よういち)先生1986年慶應義塾大学医学部卒業後、大田原赤十字病院産婦人科副部長、聖マリアンナ医科大学産婦人科講師等を経て、2002年米国バーナムがん研究所に留学。07年聖マリアンナ医科大学産婦人科准教授、10年杏林大学医学部産科婦人科准教授、14年同臨床教授の後、18年から現職。現在、日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会委員長を務める。
エストロゲンの関連の有無で子宮体がんのタイプが異なる
子宮体がんは子宮の内膜に発生するがんです。子宮体がんになる女性の割合は48人に1人で、乳がんの9人に1人、大腸がんの13人に1人などと比べると多くはありません。ただ、患者数は増加の一途をたどっています。発症のピークは50代で、20代から90代以上までと幅広い年代に発症します(2019〜20年の全国がん登録罹患データなどに基づく)。
患者数の増加の原因ははっきりしていません。小林先生は「食生活の欧米化もありますが、最も大きい原因は、妊娠・出産経験がないこと、あるいはその回数が少なくなっていることではないかと思います」と話します。
子宮体がんには、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)がかかわるタイプとそうではないタイプがあります。
「閉経までは、子宮内膜を厚くするエストロゲン、子宮内膜に受精卵を着床させる機能を持たせるプロゲステロン(黄体ホルモン)の両方がバランスよく分泌されることで健康が保たれます。ところが、妊娠・出産経験がない、あるいは少ない、閉経が遅いなどでエストロゲンにさらされる期間が長くなると子宮体がんのリスクが高くなります。また、月経不順や不妊症はプロゲステロンの分泌不全(排卵障害)が原因であることが多く、やはり子宮体がんのリスクを高めます」。このタイプのがんは50〜60代までに多く、月経時にはがれるはずの子宮内膜がきれいにはがれず、子宮内膜増殖症を経て進行していきます。
ホルモン補充療法にも注意が必要です。「エストロゲンとプロゲステロンを一緒に使うのが標準ですが、エストロゲンだけが処方されている場合、また、処方されているエストロゲンの量が多い場合があります。ホルモン補充療法を受けている人は使っている薬を確認し、定期的に子宮体がんや乳がんの検診を受けてください」。
ホルモン感受性乳がんでホルモン剤のタモキシフェンを飲んでいる人もリスクが上がります。タモキシフェンは乳がんには抗エストロゲン作用を発揮しますが、子宮にはエストロゲンとして働くため、特に閉経後では子宮内膜にがんができるリスクが高くなります。
一方、エストロゲンが関係しないタイプは萎縮した子宮内膜細胞が直接がん化するもので、通常は子宮内膜増殖症を伴わず、70代以降に多くなります。
子宮体がんのリスク要因
●妊娠・出産経験がない・少ない
●月経不順や排卵障害がある・不妊症である
●閉経が50代半ば以降と遅かった
●ホルモン補充療法を受けている
●ホルモン補充療法でエストロゲンしか使っていない(プロゲステロンを使っていない)
●ホルモン感受性乳がんの治療でホルモン剤のタモキシフェンを服用している
●子宮内膜増殖症と診断された
●肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症がある など
(次回へ続く)
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