「朝食の主食頻度群別調査」から見えてきた「ご飯派」が「パン派」より気をつけたい栄養素とは?
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』『行動栄養学とはなにか?』(ともに女子栄養大学出版部刊)など。
食べ物や食べ方の良し悪しは食品ではなく栄養素で判断を
朝食は「ご飯派」ですか。それとも「パン派」ですか。「主食の好みがはっきり分かれる朝食は、その人の食習慣全体の特徴をかなり的確に示しているように思えます」と佐々木 敏先生。「ご飯派」と「パン派」では食べている食品群や摂取量がおのずと違ってくるので、健康のために気をつけるべき食品も食べ方も異なってくるといいます。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
図1は2000人近い女子大学生を対象に朝食の主食の頻度で分けた群ごとにみた食品群摂取量の違いです。パン摂取頻度が最も多い「パン派」を基準に比較すると、ご飯摂取頻度が最も多い「ご飯派」は乳製品、菓子以外の食品群はパン派よりも多く摂取していました。「このデータをもとに、ご飯派がさらによい食習慣にするためにパン派よりも気をつけることを聞いてみると、乳製品をもっととるようにしたほうがよいと答える人が多くいました。そして、そのように答えた人たちは、ご飯派はパン派よりもカルシウム摂取量が少ないと考えていました」と佐々木先生は説明します。
私たちが食べたものは体内で栄養素に分解・吸収されて、体を形づくったり機能を維持したりします。したがって食べ物や食べ方の良し悪しを考えるときは食品ではなく、栄養素で判断することが大切です。また、食品と栄養素を単純に結びつけて考えると食べ方を間違える危険性があると佐々木先生は忠告します。
参考文献/『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』佐々木 敏 著(女子栄養大学出版部刊)P.321 ~330 図はP.321 、323を参考に作成
図2は図1と同じ人たちを対象に栄養素摂取量の違いでみたものです。このデータからご飯派はパン派よりもわずかながらカルシウム摂取量が多いことがわかります。「カルシウム摂取源の第1位は牛乳・乳製品ですが、野菜や大豆製品、海藻、小魚などにも多く含まれます。ご飯派の周りにも牛乳と同程度のカルシウムを含んだ食品がたくさんあるということです」。とはいえ、パン派はもちろん、ご飯派も日本人の食事摂取基準と照らし合わせるとカルシウム摂取量が足りているわけではありません。毎日の朝食で摂取量を増やすように努めたいものです。
「本来、各栄養素の摂取量を正確に把握し、食生活の改善に役立てるには栄養価計算が必要です。その計算ができるのが管理栄養士です。近年は薬局やサロン、ジムなどに勤める管理栄養士も増えているので、一度相談してみるのがよいでしょう」
●研究の結果と食事の留意点
研究の結果●食品群でみると、ご飯派はパン派よりも乳製品の摂取量が少なかった。しかし、栄養素ではご飯派のほうがパン派よりもわずかながらカルシウム摂取量が多かった。
●ご飯派はパン派よりも食塩摂取量が多かった。
●パン派はご飯派よりも飽和脂肪酸摂取量が多かった。
食事の留意点●食品と栄養素を単純に結びつけて考えると食べ方を間違える危険性がある。
●ご飯派のカルシウム摂取量はパン派より多いといっても食事摂取基準の推奨量より少ないので増やすように努める。
●ご飯派はパン派よりも食塩摂取量をより減らすように努める。
●パン派はご飯派よりも飽和脂肪酸摂取量をより減らすように努める。
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