〔特集〕錦秋の京都を訪ねて イロハモミジの燃えるような赤に染まる京都の秋。平安貴族たちが競い合うように和歌や日記に残した紅葉の名所は、今も私たちに眼福を与えてくれます。人気の観光地にあっても、未だ静けさの残る奥京都へ秋の美味と令和の紅葉狩りへと皆様をご案内いたします。
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歴史、風土、文化に育まれた“京寿司”の魅力を探る
京都の風情を色濃く残す石塀小路にオープンした「鮨 青」を訪ねる常盤貴子さん。築100年以上の木造の一軒家を改装した。1階がすし店、2階は京ステーキ懐石「雲収」。
日本各地で「江戸前」の暖簾を掲げるすし店が多い中、京都には古くからこの地の歴史や風土が育んだ“京寿司”の文化が今もなお根づいています。数ある名店の中から、名料亭が始めた新店と、棒ずしや手まりずしが評判の店をご紹介します。
常盤貴子さん(ときわ・たかこ)1972年神奈川県生まれ。1991年に俳優デビュー。代表作は『愛していると言ってくれ』『ビューティフルライフ』など多数。KBS京都『京都画報』にレギュラー出演。
常盤貴子さんと訪ねる京都の名料亭が開いたすし店
鮨 青(石塀小路)
魯山人の馬上盃を愛でながら、すしと料理を織り交ぜたコースを楽しむ常盤さん。すしを握るのは料理長の阿部映季さん。
「村田さんのなさることに毎回驚かされます。自由で大胆な発想は、どこか魯山人に通じるものがありますね」── 常盤貴子さん「すしを日本料理の一つと考えて京都の料理屋らしい、菊乃井らしいすし店にしたいと考えました」── 村田吉弘さん京都の名料亭「菊乃井」が、2024年7月に開いた「鮨 青」。京都市の伝統的建造物群保存地区に指定されている石塀小路の中という絶好のロケーションと、中村外二工務店による贅沢な数寄屋造りでお客様を迎えます。
「京都の料理屋が手がける新しいジャンルのすし店です。今までにないスタイルで、こうしたほうがおいしい、菊乃井らしいと思うことをどんどん取り入れています」と話すご主人の村田吉弘さん。
店名は、店内にかかる北大路魯山人の書「雲収山嶽青」の中の一文字「青」からとったものです。
「佇まいからして趣があって、建物の中も素晴らしいですね。そして、この棚に並ぶ器、もしかして魯山人ですか」と見惚れる常盤貴子さん。
カウンターの背後にある陳列棚の前で、村田さんの解説を聞きながら魯山人の器を鑑賞する常盤さん。常盤さんが手にしているのは、魯山人の漆器の代表作ともいえる日月椀。
カウンターの後ろにしつらえた棚には村田さんが長年かけて蒐集した染付や色絵の大鉢や皿、備前や志野、伊賀などの大皿、日月椀、徳利や盃など、魯山人の名品がずらりと並び、その中から好きな器を選んで、握りや料理を盛ってもらうこともできます。
菊乃井が信条とする「きれい寂び」を大切に、料理はもちろん、器やしつらい、空間までも楽しめる空間になっています。
「おすし屋さんでありながら、素晴らしい数寄屋造りのしつらいの中に身を置き、美術品級の器で料理をいただけるとは、京都ならではのなんとも贅沢な時間です」と常盤さんは話します。
長年かけて蒐集した魯山人の器づかいも楽しみ ── 鮨 青
京都らしいネタと、江戸前よりも柔らかな風味のシャリで握るすし。右上から時計回りに、徳島産のえぼ鯛、3日間ねかせたひと塩の甘鯛、淡路島産の一本釣りのあじ、中とろ、塩で味わうまながつお。備前四方鉢、徳利、盃はすべて魯山人作。
“京寿司”といえば酢でしめた魚や味をつけた素材を使うすしを思い浮かべますが、「鮨 青」のコースは、京料理の繊細な仕事を生かした握りと料理を交互に出すスタイルです。
「魚は本店と同じ仕入れで、使うのは関西以西で獲れる瀬戸内海や淡路島に揚がる大きな魚の一番いいところだけ。握りはネタと酢めしのマッチングと考え、魚のしめ方やねかせ方、シャリの温度や酢加減にも料理屋のノウハウを取り入れています」。
鯛、いさき、えぼ鯛などの白身には柚子や木の芽などの香りを添え、まぐろの赤身は、一切れはそのまま、もう一切れは漬けにして2枚重ねにし、うまみをより感じられるように握ります。
秋のコースの始まりは温かいくるみ味噌がかかる先付「小かぶのふろふき」。織部向付と匙置きも魯山人の作。
まぐろは漬けと、赤身を薄く切ったものの2枚づけで握る。器は魯山人の木の葉繪平向付。
「東京にも他所にもない握りで、一貫ごとの味はもちろん、見た目にも新しさを感じます。合間に菊乃井さんの料理を少しずついただけるのもなんとも贅沢。それも魯山人の器尽くしで」と常盤さん。
お椀のふたを開け「吸い口の柚子がいい香り」と常盤さん。新米をころもにして揚げた甘鯛と、松茸を合わせた豊年椀。小ぶりのお椀を使い、すしとのバランスを考えてポーションは控えめ。
デザートは村田さん考案の昔ながらのプリンと、モンブランアイスクリーム。
コースは先付から始まり、自家製からすみやお造りを経て、握りへと進む流れ。
合間に八寸で季節感を感じ、体が少し冷えたところで出される温かい椀物で料亭の味を楽しむなど、村田さんが理想とする順番で供されます。最後は玉(ぎょく)ではなくデザートで締めくくられます。
鮨 青(あお)住所:京都市東山区下河原町石塀小路
TEL:075(551)2000
営業時間:15時~22時
定休日:火曜
要予約おまかせ3万3000円
(次回へ続く。
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