猛暑の日々が続いた今年の8月、星野リゾート代表・星野佳路さんの姿は日本とは季節が逆の南半球はニュージーランドの南島にありました。目的は絶景を眺めながらのスキーと、スキーを通じた人々との交流。ゲレンデでの出会いが仕事や人生のヒントになることもあると話す星野さんが、14年以上毎年通うニュージーランドスキーの醍醐味を教えてくれました。
※1NZD=90.80円(2024年10月8日現在)。日本との時差は通常は+3時間 ・
星野佳路さんがニュージーランドを愛する理由↓・
アフタースキーの美味処↓・
約10時間の空の旅もゆったり過ごせる「スカイカウチ」とは?↓
〔湖きらめくパノラマに向かって風を切って滑る爽快感/トレブル・コーン・スキー・エリア〕早朝のゲレンデを滑走する星野さん。「何度訪れても、ゲレンデからワナカ湖が見えた瞬間は気分が上がります」。山岳地帯にある スキー場で、最長滑走距離4000メートルというス ロープの長さが特徴。中上級者向けコース が中心だが、初心者向けゲレンデも完備。 ワナカの中心街からは車で約30分。通常6月下旬~10月上旬 8時30分~16時/2083 Wanaka-Mount Aspiring Road,Wanaka https://www.treblecone.com/
目標は年間100日滑走!
星野佳路さん Yoshiharu Hoshino
1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年星野リゾート代表取締役社長に就任。2012年よりHGSC(星野グルメ スキークラブ)主宰。写真のスキー板のシールは星野さんがデザインしたクラブのロゴマーク。
星野佳路さんがニュージーランドを愛する理由
雲海の先に広がる湖、青天に聳える白い峰──ニュージーランドスキーの醍醐味は手つかずの自然との邂逅
〔ヘリコプターでニュージーランドの最高峰へ。 絶好のパウダースノーを独り占め/アオラキ/マウント・クック〕アオラキ/マウント・クック国立公園は一大ヘリスキーエリア。標高3754メートルのアオラキはニュージーランドの最高峰。自分たち以外誰もいない雪山で、氷河に降り積もった新雪にシュプールを描くひとときはかけがえのないもの。「人生観が変わった」という人も多いそう。※星野さんが利用しているヘリスキー会社「マウント・クックヘリスキー」の公式サイトhttps://www.mtcookheliski.co.nz/
年間80日近くを世界各地のスキー場で過ごしている星野佳路さん。
「最近ではタスマニアとアイスランドで滑りました。プロスキーヤーでも行ったことがないような場所を探しては出かけています」といって笑う、筋金入りのスキー愛好家です。
そんな星野さんにとって、ニュージーランドでスキーをする醍醐味とは?
「まず、北半球が夏の時季にスキーができること、時差が少なく体が楽なこと、街のレストランの食やサービスの質が高く、上質感のある滞在ができること。いろいろありますが、一番はなんといっても、ここにしかない大自然の絶景が見られることですね」。
ニュージーランドは大きく北島と南島に分かれ、星野さんが現在、毎夏訪れているのは南島。トレブル・コーン、カードローナ、コロネット・ピーク、ザ・リマーカブルズという4つのスキー場があります。
「それぞれのよさがありますが、絶景といえばトレブル・コーン。晴れの日はもちろん、ワナカ湖に雲海がかかったときの眺めも素晴らしいです。一番人気のカードローナはゲレンデに3つの山があるのですが、谷越しに見る向かいの山が近い。天候がよく、雪山がくっきり見えると感動します」。
スキー場とは別に、星野さんにとびきりの絶景を見せてくれるのが、ヘリスキーで行く高山です。ヘリスキーとは、ヘリコプターで雪山の山頂付近へ行き、圧雪されていない斜面を滑走する、ちょっぴりスリリングで心躍るスノーアクティビティ。
「ニュージーランドのヘリスキーは自由度が高く、その日の天候や雪の状態で行く山を決められるのが魅力です。パウダースノーの斜面を滑るのは爽快そのもの。仲間と雪上で食べるランチもいい。一度経験した人は必ず『また行きたい』といいます」。
そんな魅惑のスキーライフを一緒に楽しむのは、星野さんが主宰する「HGSC(星野グルメスキークラブ)」のメンバーです。大半は星野リゾートの社員ですが、星野さんに憧れて直談判した猛者も。スキーやスノーボードが好きで仲間と気持ちよく過ごせる人なら、星野さんは常にウェルカムだといいます。HGSCの拠点はバケーションレンタル(貸し別荘)で、移動はレンタカー。
和気藹々とスキーやスノーボードに興じていたHGSCの皆さん。左端の木ノ下 弦さんは「スキー、英語、運転の技術が必須」という星野さんのアシスタント。この大役は1年交代なのだそう。
星野さんが今回ワナカの拠点に選んだのは、各個室にシャワーが付いた快適なバケーションレンタル。夜は暖炉のあるリビングでおしゃべりに花が咲いた。
いざ、ヘリスキーへ。安全のため、山を熟知したガイドが必ず同行する。写真/ HGSC
「朝早くにスキー場へ行き、ゆっくりコーヒーを飲んでから滑り、昼頃には切り上げて街でランチをして帰る……というのが通常のスタイルです。その後、僕はリモート会議をする日も多いのですが、時差が3時間だから可能なんですよね」。
満足そうに話す星野さんに倣って、来夏は暑さ極まる日本を抜け出し、ニュージーランドでスキーを楽しみませんか。
雪山の話からビジネストークまで
スキーを通じて広がり、深まる世界中のキーパーソンとの交流
心洗われるワナカ湖畔の夕暮れ。 ニュージーランドは街もスキー場も清潔に保たれていて快適だ。
海外での滞在で、星野さんがスキーと同じくらい楽しみにしているのが地元の人たちとの交流です。
「リフトで乗り合わせた人に話しかけたり、かけられたり、はよくあります。僕がヘルメットやスキーの板に貼っているシールを見て、『日本からか?』
と声をかけてくれる人も少なくありません。それを期待して貼っているんですけどね」。
社交的な星野さんはスキーを通じて世界各地のキーパーソンとつながり、経済界にネットワークを培ってきました。
「フランス、アメリカ、カナダなど、それぞれのスキーリゾートに価値観が合い、尊敬できる仲間がいます。彼らとは会うと情報交換をし、日本に来たときは僕がスキー場に案内するという間柄。そういうことの積み重ねが関係性を深めていると思います」。
ニュージーランドにもそんな仲間がたくさん。「バンジージャンプ」の共同発案者で起業家のヘンリー・ヴァン・アッシュさん、名門ワイナリー「フェルトン・ロード」オーナーのナイジェル・グリーニングさんと息子のハーミッシュさん、行列の絶えないハンバーガー店「ファーグバーガー」経営者のアンソニー・スミスさんなど、独自の発想で道を切り拓いてきた人たちばかりです。
この日、1年ぶりに再会したマット・ウッズさんもそうした一人。クィーンズタウンの経済、文化、人々の交流、自然環境をよりよくするため、「リジェネラティブ(再生)」をキーワードに数々のプロジェクトを推進しています。マットさんはまた、交通渋滞の緩和と排ガス抑制のため、ワカティプ湖に電動ボートを、その上空にゴンドラを導入するという大プロジェクトを企画中。
熱く語るマットさんの話に星野さんも興味津々、二人とも少年のように目を輝かせていました。
クィーンズタウンの環境問題に向き合う人
マット・ウッズさん
観光機関「Destination Queenstown」最高経営責任者。カードローナ・アルパイン・リゾート とトレブル・コーン・スキー・エリアの販売サービス部門長などの経験を持つ。ニュージーランドは電力の86パーセントを水力、風力、太陽光などのグリーンエネルギーで賄っていることなど、星野さんとマットさんの話は多岐にわたった。
左・マ ットさん発案の「アゲイン・アゲイン」は繰り返し使えるステンレス製カップを普及する取り組み。返却すると、カップ代が戻ってくる。右・スキー場のウォーターサーバーもゴミを出さないための工夫。
スキー仲間のご縁でワイナリー訪問も定番に
●ピノ・ノワールの名門「フェルトン・ロード」
世界最南端のワイン生産地の一つ、セントラル・オタゴの中心部に位置。ピノ・ノワールの評価が高く、特に幻ともいわれる「ブロック3」「ブロック5」は愛好家垂涎の的だ。見学後、5種類ほどのワインのテイスティングができる無料ツアーはおすすめ。
FELTON ROAD
319 Felton Road, Bannockburn, RD2 Central Otago/営業時間:10時30分~、13時30分~のツアーにて見学可(テイスティングを含めて1.5~2時間。無料、要予約)。土曜・日曜・祝日定休 https://feltonroad.com/
●眺望抜群のレストランも評判「カードローナ蒸溜所」
本場スコットランドとアメリカでウイスキーづくりを学んだオーナーが2015年に創業。カードローナ山の伏流水や地場のハーブからつくるウイスキー、ジン、ウォッカ、リキュールは個性豊か。レストラン、ショップも併設されており、テイスティングを含めたツアー(25NZD〜)は毎日開催している。
Cardrona Distillery
2125 Cardrona Valley Road,Cardrona/営業時間:9時30分~19時 12月25日のみ休み https://www.cardronadistillery.co.nz
●情熱溢れる日本人夫婦が営む注目ワイナリー「サトウ・ワインズ」
Sato Wines
「フェルトン・ロード」などで研鑽を積んだ佐藤嘉晃さん、恭子さんご夫妻が経営。有機農法で栽培した自社農園のぶどうを自社で醸造し、日本を含め16か国に輸出している。現在は見学不可。
ラム肉や魚介など大自然の恵みを満喫できる、エリア別〔ワナカ〕〔カードローナ〕〔クィーンズタウン〕星野さんのごひいきを訪問
アフタースキーの美味処
今宵はメンバーの一人がデザインした揃いのTシャツで、ニュージーランド産ビールで乾杯。写真/HGSC
“グルメスキークラブ”の名のとおり、HGSCはおいしいものに目のないメンバーばかり。気に入ったお店をリピートするかたわら、新しいお店の開拓にも熱心です。ニュージーランド滞在中のランチやディナーは、主にそのとき宿泊しているワナカかクィーンズタウンの街中にて。星野さんによると、コロナ禍を経て、店の顔ぶれが少し変わったものの、町全体のクオリティは保たれているそうです。
「クィーンズタウンに比べると、ワナカはだいぶ小さいですが、どちらも美しく安全な湖畔の町で、おいしいレストランやカフェがたくさんあります。夜遅くまで開いているスーパーや各スキー場へのシャトルバスもあって、快適に過ごせますよ」。
星野さんごひいきのお店を巡ってみると、洗練されたコースディナーが堪能できるレストランも、大繁盛のハンバーガー店も、さらにはベーカリーやジェラート店も、味、店構えともにハイクオリティで、再訪したいと思わされます。いずれのお店も、スタッフのフレンドリーで献身的なサービスが、おいしさを引き立てていたのも印象的でした。
●地産地消のピザやパスタに舌鼓。星野グルメスキークラブ公認のイタリアン
「フランチェスカ」(ワナカ)
明るく活気あるレストランは、自家製パスタや窯焼きのピザ、ニュージーランド産を中心に種類豊富なワインが人気。上質なラム肉や魚介は持続可能な農業や漁業を実践している近郊の企業から仕入れたものばかり。選択に迷ったら、おすすめ上手なスタッフに相談を。
右上・きめの細かい鹿肉のカルパッチョ(24NZD)。右下・伊勢海老の一種、クレイフィッシュのタリアテッレ(47NZD)と薪で香ばしく焼いた半身(左下、時価)。左上・うまみが凝縮されたラム肉の自家製ソーセージとチーズやにんにくの相性が抜群のピザ(33NZD)。
francesca.
93 Ardmore Street, Wanaka, Central Otago/営業時間:12時~深夜 無休 予約がおすすめ https://francescawanaka.co.nz/
本格的なコース料理をゆっくり味わいたい夜はこちら
「アーク」(ワナカ)
2019年に共同で開業したジェイムス・ステイプリーとサム・クーパーは、ともにイギリス出身のシェフ。地元の農家や猟師らから届く食材を自由な発想で組み合わせたイノベーティブな料理は嬉しい驚きをもたらす。カクテルをはじめドリンクメニューも充実している。
左・全6品からなる8月のコース(89NZD)より。左奥はマッ シュルームと玉ねぎのタルトタタン。中央左の黒トリュフ をトッピングしたアイスクリームと、葉野菜のサラダとともにいただく。中央右は鹿ヒ レ肉のロースト黒くるみソー ス添え。手前は揚げたてさくさくで提供されるマルスズキの燻製とスカンピのコロッケ。右・ココナッツのセミフレッドとライムシャーベットを合わせた爽やかなデザート(20NZD)。
arc
74 Ardmore Street, Wanaka, Central Otago/営業時間:17時~深夜 月曜・火曜定休 https://www.arcwanaka.co.nz/
●クィーンズタウンで必ず立ち寄りたい、行列の絶えない大人気ハンバーガー店
「ファーグバーガー」(クィーンズタウン)
「ボリューム満点なのに軽く食べられて、もたれない。高さを出すハンバーガーが多い中、食べやすい高さのまま、横に大きくしているのも特徴ですね」と星野さん。パテは系列の精肉店の牛肉で作り、中がややもちっとしたごま付きバンズは隣の「ファーグベーカー」で専用に製造。ファーグバーガー(16.50NZD)のほかに豚バラ肉、鶏肉、ラム肉、鹿肉を使ったものも。ビーガン用に変更可能な商品やグルテンフリーのバンズもある。
Fergburger
42 Shotover Street, Queenstown/営業時間:8時~午前4時30分 無休 https://fergburger.com/
●暖炉もある広い庭でくつろぎのランチタイムを
「カードローナホテル」(カードローナ)
ワナカとクィーンズタウンをつなぐ幹線道路沿いに建つ愛らしいホテルは1863年創業。ゴールドラッシュ時代を知るニュージーランドで最も古いホテルの一つだ。多くの人によって受け継がれてきた地域のアイコンを2013年から経営するのは、その歴史的佇まいに惚れ込んだ二人。レストランとバーのメニューを改良したことなどが功を奏し、地元の人や観光客の憩いの場になっている。
右はベーコンやエシャロット、チーズも入った熱々のポテトグラタン (21NZD)。左は看板料理のナチョス (24NZD)。チーズ、サワークリーム、 ワカモレとハラペーニョがたっぷり。 ホットワインとご一緒に。
Cardrona Hotel
2312 Cardrona Valley Road, RD2 Wanaka/営業時間:8時~深夜 無休 https://www.cardronahotel.co.nz/