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十六代樂吉左衞門の挑戦──黒樂が焼成される黒窯を特別取材

2024.11.12

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〔特集〕十六代樂吉左衞門の挑戦 継承から革新へ 千家十職の一家として400年以上、侘茶に適う茶碗を造り続けてきた樂家。令和元(2019)年に十六代を襲名した若き吉左衞門は、焼貫茶碗でつとに知られる先代とは別な向き合い方で樂家初代の長次郎と対峙、理想の茶碗造りに日々心血を注いでいます。メディアとして何十年かぶりに許された黒窯での撮影などを通して、『家庭画報』は吉左衞門の挑戦を見つめます。

特集「十六代樂吉左衞門の挑戦」の記事一覧はこちらから>>

黒窯
人事を尽くす ── 火に託す、委ねる

樂家の黒茶碗は一碗ずつ焼かれる。上写真は生まれたての茶碗が今まさに内窯から引き出されようとしているところだ。燃え盛っているのは備長炭。

黒樂(黒茶碗)を焼成する黒窯の撮影を許された取材班が樂家に入ったのは2024年4月、とある日の午前2時。深夜0時から窯場では備長炭が熾されていました。樂家の窯は電気窯と異なり炭で少しずつ温度を上げていかねばなりません。


黒樂の焼成温度は1200度以上。窯場に入る人々の出で立ちは綿の作務衣に消防士が用いる不燃素材の前掛け。とはいえ、火の粉で穴が開き、そこら中が繕った跡だらけだ。上・窯場に掛けられた道具の数々。下・窯場を火事から守る大勢の狐たち。

窯焚きには当代の吉左衞門さん、先代の直入(じきにゅう)さん、吉左衞門さんの弟・雅臣(まさおみ)さんをはじめ親戚筋、さらに備長炭の仕入れ先など樂家ゆかりの人々が集まり総勢15人ほど。吉左衞門さんの指揮のもと、フイゴを吹く、火の始末をするなど皆やるべきことを一心不乱に行います。

火の神が呼吸をしているかのようなゆっくりとした調子のフイゴの音がするたび、炭は激しく燃え、勢いよく爆(は)ぜて、やがては燃えさしになります。その様子を注意深く見守る吉左衞門さんの眼差しは厳しく、口はぎゅっと一文字に結ばれています。

窯場の中は暑いという言葉では形容し難いくらいの高温で、痛さを覚えるほどだ。フイゴが吹かれるたびに火の粉が舞い上がり、黒窯の周りに集まった人々のシルエットを浮かび上がらせる。注連縄が張り巡らされた窯場は厳かで神聖な雰囲気に包まれている。

黒窯で焼かれるのは一度にたった一碗。普段はそれぞれ別な仕事をしている人々が一碗のために窯場に会し、情熱を注ぐのです。失敗は許されません。

「そろそろ、行こか」と吉左衞門さんから声がかかると、黒窯の周りに一同が集まります。掛け声とともに太鼓を打つような激しいリズムでフイゴが吹かれ、外窯と内窯との間に焚(く)べられた炭を棒で猛烈に突き崩します。途端に火の粉が舞い散り窯場の中が赤々と染まる。まるで火祭り、御神事のような光景です。

炭を突き崩す様子。

火を熾し、窯内の温度にムラができないよう突き崩し、新たな炭を焚べるという工程を十数度もくり返し、早朝5時過ぎにようやく最初の一碗が窯に入れられました。

これから焼かれる茶碗。

しばらくして内窯から引き出された茶碗は冷め割れしないよう時間をかけて冷やされます。「やるべきことをやり尽くし、考えられることをし尽くしたら、後は火に託す、委ねるしかありません」と吉左衞門さん。

終始厳しい表情だった当代の相好が崩れたのは陽も昇り切った10時過ぎ、艶やかで深い黒をまとった茶碗を手にしたときのことです。

ようやく手に持てるほどに冷めた茶碗。

一同の表情もようやく緩みました。一碗に情熱を注ぐ窯場は夕方まで続きます。

撮影/田口葉子

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