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伝統工芸

十六代樂吉左衞門の挑戦──継承までの葛藤と見出した想い、そして進化する茶碗

2024.11.13

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樂家としての軸を大切にする

初代の長次郎は最初に赤樂(赤茶碗)を生み出したと伝えられています。焼物の産地は「作陶に適した土がある」ところ、よい土がとれる場所で栄える。ただ、利休は素朴な土で粘土質であればよいと考えたのでは、と吉左衞門さんは語ります。

長次郎の工房の近くでとれた粘土質の土。自身が生きている土地を掬う。その土であれば、「素朴で、利休居士が考える侘茶に適い、茶室の壁とも親和性がよい、空間やほかのお道具とも合う、と利休居士そして長次郎は考えたのでは」と。

赤樂茶碗

樂家の茶碗は、素焼きと本焼きの2回焼成が行われる。どちらも炭窯によるもの。電気窯では決して現れない、炭窯だからこそしっとりとした深い表情が生まれる。この茶碗の景色も、土と炎が織りなしたもの。

実は利休の茶室の壁は、長次郎茶碗と同じ土、赤みのある聚楽土なのです。よい意味で存在としての茶碗を消せる、同化させることができると考えたのでは、と推しはかります。そして、特殊なかたちではなく人の手のかたちにすることで、茶碗ではなくお茶のほうに意識が向くようにしたのではないかと睨んでいるのです。


赤樂茶碗

赤樂の色合いは、絵の具のように塗っているのではなく、土そのものに含まれる鉄分による自然な発色。茶碗を炭窯で焼くことにより、黒とのコントラストが現れ、唯一無二の自然な表情が生まれるのだ。

長次郎は、存在としてはあるけれど、客も空間も暗闇も光も釜もすべてが一つになるような茶碗を、生み出しました。吉左衞門さんは、千利休の侘茶に適う茶碗を造った長次郎のエネルギーは樂家の軸、自身の核になっていると考えています。樂茶碗は割と柔らかく、手が触れているかのように違和感なくお茶のほうへ意識がスッと入るように造られています。

赤樂茶碗

伝統的な姿に、大胆な景色が現れている。この景色も作者の意図ではなく、焼成時の炭の炎によるもの。完全にコントロールするのではなく、炎に委ねる部分があるからこそ、その炎との対話が見えてくる。

土の調合、釉薬、焼き方といった工夫のすべてはお茶をのむためのもの。その軸を創始した長次郎の茶碗は掌(たなごころ)に入る大きさが絶妙であることもさりながら、底知れぬ深さが備わっているのです。しかし、樂家の歴代は決して長次郎作品を真似しません。模倣はやがて劣化することを知っているからです。

歴代が慢心していたら「私の代まで樂家は続いていなかったでしょう」と吉左衞門さん。長次郎に学ぶべきはかたちにあらず、そのこころなのです。吉左衞門さんは当代として長次郎と向き合い、今に適った茶碗造りを目指しています。

襲名した頃は伝統的な高さよりほんの少し高めに高台を造っていたが、時を経て元の有り様に近づいている。

撮影/田口葉子

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