「料理をする頻度の調査」から見えてきた。料理をよくする人ほど長生きをする
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』(ともに女子栄養大学出版部刊)など。
料理が好きな人のほうが野菜を十分に食べていた
あなたは料理をするのが好きですか。料理はからきしダメで、もっぱら食べるほうが専門という人もいるでしょう。「料理が好きか嫌いか、得意か苦手かということが食事内容や健康にどのように関連しているのか、一般の人も大いに関心のある話題です。しかし、そのことを調査した研究は意外に少ないのです」と佐々木 敏先生はいいます。
数少ない調査の中で注目したいのが台湾の研究です。65~97歳の男女1888人を対象に食事調査を行った際、料理をする頻度と栄養素の摂取量の関係も調べました。その結果、料理をする頻度が高い人ほど食物繊維とカルシウムの摂取量が多いことがわかりました(図1)。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
「これらの栄養素の摂取源の一つは野菜であると考えられます。実はほかの研究でも同様の傾向がみられることが判明しています」。
この研究は18~65歳の女性1136人を対象としたオーストラリアの調査で、新しい料理に挑戦したり、朝から夕食の献立を考えたりするなど料理好きの人ほど野菜を十分に食べていることが多いという結果でした。これらの研究から“料理をよくする人ほど野菜をたくさん食べる”ということがいえそうです。
一方、台湾の研究では料理の頻度で食塩や脂質の摂取量には目立った差はなく、料理をよくする人が健康を考えて食塩や脂質のとりすぎに注意しているとはいえませんでした。
「台湾の研究で興味深いのはその後も10年間調査を続け、寿命との関係を調べていることです」。その結果が図2です。
参考文献/『行動栄養学とはなにか?』佐々木敏著(女子栄養大学出版部刊)P.356~365図はP.361、P.363を参考に作成
料理をする頻度別に死亡率との関連を検証したところ、料理をする人ほど死亡率が低い、つまり長生きすることがわかりました。この研究では、結果に影響を与える因子(性別、年齢、運動能力、認知機能)を除いて料理をする頻度と死亡率の関連についても計算し、それらのデータでも料理をする人ほど長生きすることが示されたのです。
「野菜を多く食べる、栄養バランスがよいなどの食事の要素以外にも長生きの理由がありそうです。複雑な動作と頭脳活動を伴う料理を日常的に繰り返すことは、運動能力と認知機能のトレーニングととらえることもできます。自分で料理をしなくても生きていける時代になりましたが、料理をすることは長生きにもよい効果をもたらしているようです」
●研究の結果と食事の留意点
研究の結果●料理をよくする人ほど食物繊維とカルシウムの摂取量が多い傾向がみられた。これらの栄養素の摂取源の一つは野菜であることが推測される。
●料理をよくする人とそうでない人との食塩や脂質の摂取量は大差なかった。
●料理をよくする人ほど死亡率が低く、結果に影響を与える因子(性別、年齢、運動能力、認知機能など)を除いた場合も同様の傾向がみられた。
食事の留意点●自分で料理をしなくても栄養バランスのよい食事や必要な栄養素をとることは可能。しかし、料理には複雑な動作と頭脳活動を伴うため、食事以外の健康効果も期待できる。長生きするためには料理をするのがよさそうだ。
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