ジュエリー見聞録 12月 宝石史研究家・山口 遼さんの解説で、素晴らしいジュエリーとその見どころをお届けします。
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シンプルに見えるものほど難しい、動物ジュエリーの傑作
解説/山口 遼(宝飾史研究家)
もう昔のことになりますが、中米のホンジュラスを放浪していた頃、プールほどの大きさのため池に、たくさんの子供のワニが飼われているのを見かけたことがあります。とても迫力があり、でも一匹ずつを見ると結構可愛らしいものでした。こちらのカルティエのネックレスはワニの中でもクロコダイルと呼ばれる種類の、子供をデザインしたもので、顔が少し丸みを帯びています。
細長いモチーフの先端が重なり合って円形を描くデザインを「ウロボロス」と呼びます。古代から存在するデザインで、カルティエの歴史の中でも繰り返し使われてきました。
このネックレスからは、カルティエの職人の腕の確かさがよくわかります。着用の際にはワニの顔の裏の留め具を外して、尾との間を広げるようにして首に通しますが、これにはネックレスの円形の部分がしなやかに動かなくてはなりません。全ての部分にダイヤモンドをセットして、しかも全体が柔らかく曲がり、それぞれのパーツの継ぎ目が外から見えないように作るとなると、非常に高度な技術が必要です。“シンプルに見えるものほど大変”という見本のような作りです。
表情も可愛いですよね、小さなエメラルドの緑の目が素晴らしいアクセントになり、全体のイメージを和らげています。クロコダイルのデザインを何度も手がけてきたカルティエならではの傑作といえるでしょう。
白く輝くクロコダイルに宿る、メゾンの見事なサヴォアフェールしなやかに身体をくねらせ一歩を踏み出さんとするワニの姿をとらえたネックレス。小さなパーツで緻密に表現された鱗のデザインや、なめらかで立体的な作りに、メゾンの技が光ります。計22.857ctものダイヤモンドが贅沢に敷き詰められて。ネックレス(WG×ダイヤモンド×エメラルド)1億560万円(参考価格)/カルティエ
●お問い合わせ/カルティエ カスタマー サービスセンター TEL:0120-1847-00