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日本の名教会建築から辿る、潜伏キリシタンの軌跡──長崎・五島教会巡礼記

2024.12.12

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〔特集〕心洗われる日本の名教会建築 日本中の街や家庭がクリスマス色に彩られる12月。聖夜の本来の意味に心を寄せ、教会建築を訪ねてみたいと思います。静謐で、厳か、そして祈りに満ちた聖なる空間に身を置くと、不思議と心が静まり、洗われるような気がします。災害や紛争が続き、安寧が得がたい今、心の拠り所を祈りの空間に求めます。前回の記事はこちら>>

特集「日本の名教会建築」の記事一覧はこちら>>>

潜伏キリシタンの軌跡を辿る
長崎・五島教会巡礼記

約250年間、禁教政策下でも密かに信仰が守られていた、という特異な宗教的伝統と歴史には普遍的価値があると認められ、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が2018年に世界文化遺産に登録されました。

NPO法人長崎巡礼センターの理事長も務める田平天主堂の中村神父は、世界遺産登録の立役者の一人。


教会サイドでは、教会堂は信仰の場であって観光資源ではないと登録への反対もあったそう。「それでも相互理解によって争いを避けられるように、大事なのはまず知ってもらうこと」と話します。

潜伏キリシタンが信仰を継承できた理由は、「(1)祝祭日が記された暦を持っていたこと、(2)役割分担が明確で組織立っていたこと、(3)オラショという祈りの言葉があったことだと考えられます。神父たちの教えをもとに、独自の信仰体系を築き上げたのです」。

そして信仰心を支えていたのが、“バスチャンの予言” です。バスチャンは外海の日本人伝道師と伝えられていて、“7代後に神父が黒い船に乗ってやってきて、どこでもキリシタンの歌を歌えるようになる” という予言を残していました。

「祈りの岩」。バスチャンの師であるサン・ジワン神父を祀る外海の「枯松神社」へ向かう山道の途中にある。潜伏キリシタンたちが年に一度だけこの岩陰でオラショを唱えていた。

実際、予言どおりに7代後に神父が日本に来て、1865年の大浦天主堂での「信徒発見」に至っています。奇跡的な出来事です。

外海の「遠藤周作文学館」から、潜伏キリシタンが海の向こうの五島を夢見て眺めたであろう景色が広がる。遠藤周作はカトリック教徒の小説家で、江戸初期のキリシタン弾圧を描いた小説『沈黙』などで知られる。

信徒の小島さんは、世界遺産の調査団のイコモスに久賀島を案内したそうです。

「ここ久賀島は、『五島崩れ』(崩れ=潜伏キリシタンの摘発と処刑)の発端となった地で、唯一殉教者が出た『牢屋の窄(さこ)』事件があった場所です。大浦での信徒発見の知らせを受けて、島の人たちも信仰を公にした結果、1868年、12畳ほどの牢獄に、約200人もの信徒が約8か月間押し込められ、43人が殉教。私の先祖も監禁された凄惨な事件ですが、長きにわたって潜伏し、抑圧されてきた彼らにとって、信仰を公にするというのは喜びに満ちたことだったのだと思います。そして彼らが勇気をもって告白したから、今こうして私も祈りを捧げることができているのです」。

牢屋の窄殉教記念聖堂(長崎県五島市久賀町大開)

「牢屋の窄」事件があった場所に、「牢屋の窄殉教記念聖堂」と碑がある。聖堂内の絨毯は、牢屋の狭さがわかるよう色分けされており、碑には監禁されていた信徒たちの遺骨が納められている。「先祖の名前もここに」と小島さん。

「牢屋の窄」殉教記念碑には牢に囚われた人たちの名前が刻まれている。下段、右から4行目、5行目に「コレンショ 小島徳造」「マリヤ(小島)ハル」とあるのが見て取れる。

明治政府はその後、弾圧の惨状を知った欧米諸国から圧力を受け、1873年に禁教令を撤廃。切望していた自由な信仰の時代が到来しました。

小島家の “かんころもち”。五島の郷土菓子で、“かんころ” とはさつまいものこと。古くから五島の人にとって重要な農作物で、どこの家でも干しいもにして保存食にしていた。今でも各家庭で作られている。

同じく久賀島出身の中村神父の先祖も、牢屋の窄で監禁、殉教しました。

「殉教の歴史を持つ人たちは、命に敏感でした。死を身近に感じながら、それでも生きていくんだという強い意志がありました。今は、隣に誰が住んでいるのか、生きているのか、わからない人がほとんどでしょう。この命に鈍感な時代にこそ、私は潜伏キリシタンの精神性に学ぶものがあると思います。彼らは “命を懸けてできること” を持っていました。信徒であるかどうかにかかわらず、棟梁・鉄川与助さんが仏教徒でありながら教会建築に邁進したように、信念を持ってやり遂げたいことがあるか、ということは人生の普遍のテーマです」。

江上天主堂(長崎県五島市奈留町大串1131)

奈留島の「江上天主堂」も世界遺産構成資産の一つ。鉄川与助が手がけた木造の教会堂で、資金集めに苦労しながら1918年に完成。台風対策のため雑木林の中にあったり、湿気対策のため高床式になっていたりと、風土に合わせた工夫が。(見学の際は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター」TEL 095(823)7650へ要事前連絡)

キリシタン洞窟(長崎県南松浦郡新上五島町若松郷)

若松島の南西端の断崖。「五島崩れ」の際に、3家族がこの洞窟に逃げ隠れた。陸地からは行けず、クルーズツアーなどで海上から見ることができる。近くには岩場に開いた穴が聖母子像のように見える「ハリノメンド」(針の穴)も。©KAMIGOTO

浜脇教会(長崎県五島市田ノ浦町263)

1931年、木造の教会堂(現「旧五輪教会堂」こちらの記事参照)が手狭になったため建て替えられ、現在の「浜脇教会」に。五島で最初の鉄筋コンクリート造の教会堂。丘の上にあって、福江港から田ノ浦港へ向かう海上からも見ることができる。

現在、特に五島は少子高齢化と人口減少に伴い、信徒数も激減。教会を維持する人手と資金不足の問題に直面していますが、幾多の苦難も克服してきた祈りの心は、この危機をも乗り越え未来へと継承されていくでしょう。

(次回に続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年12月号

家庭画報 2024年12月号

撮影/本誌・坂本正行 協力/五島市地域振興部文化観光課

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